無人宇宙探査機をプチプチに包んで送る

「いいわまたかけるから」という、かつて録音したもので、ずっと今でも聞いているラジオドラマがある。

わたしは、宇宙船に乗って難破しているのだが、死を覚悟したときに、「いいわまたかけるから」という謎の女性からのメッセージに出会う。

女性はわたしに対して、いいわまたかけるからかけ直すからと言うのだが、わたしの記憶はロックされており、そのメッセージが誰からきたものなのか、わたしとそのひとはどういう関係にあるのか、わからない。わからないまま、わたしは、いろんなものを宇宙船から捨ててゆく。

そして、唐突だが、わたしは、最後に、愛に、出会う。

いいわまたかけるから、の、正体は、愛。

愛だったと、おもう。わたしが、きみだったんだね、と言うと、あなたは、あたりまえでしょう、と答える。わたしはあなたの膝のうえで、よかった、と安心する。わたしの顔は濡れている。泣いていたようだ。あなたは笑う。ふっと終わりがくる。そういう愛。これから聞き直してみるけれど。でも、たぶん、まちがってないと、おもう。

「いいわまたかけるから」って、わたしは言われたことがあっただろうか、いっかいでも。それが愛の正体なのに。

「いいわまたかけるから」は、いちど、わたしとあなたがすれ違ったことばだ。「いいわ」

でも。「いいわまたかけるから」は、もういちど、わたしとあなたがふたたびめぐりあうためのことばだ。「またかけるから」

いいわまたかけるから。

どうしてひとは電話をとおして愛をうけとってしまうことがあるんだろう。だまってたのに。おたがいたしかめあうような息の音しかしなかったのに。いいわまたかけるから。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター