ネット通販の普及と活字離れの影響で、昔ながらの街の本屋さんが次々と姿を消しています。本を取り巻く環境が大きく変わりつつある今、注目されているのが新たな流れ“サードウェーブ”ともいえる「独立系書店」です。独自の視点や感性で、個性ある選書をする“新たな街の本屋さん”は、何を目指し、どのような店づくりをしているのでしょうか。


【連載4】
“無意識の欲求”を刺激する本屋でありたい
BOOKS青いカバ(東京・駒込) 小国貴司さん


豊かさと恐ろしさ。その両方が本にはある
JR山手線・駒込駅から徒歩7分。アジア全域の歴史・文化の研究施設であり、東洋学の専門図書館や博物館も備えている「東洋文庫」のそばに、「BOOKS青いカバ」がオープンしたのは2017年1月のこと。学生時代から駒込界隈の古書店をよく訪れていたという店主の小国貴司さんは、物件を探す際に本を読む人が多いこの街を第一候補にしていたそうです。新刊を扱いながらも、あくまで古書メインという基本的なスタンスは崩したくないという小国さん。古書へのこだわりや本の持つ可能性について、お聞きします。

── なぜ「青いカバ」を店名にしたのですか?

カバは多産で、昔から豊かさの象徴でした。古代エジプトでは「青いカバ」が副葬品にされていましたし、大英博物館のミュージアム・グッズにもなっているんですよ。みんなに愛されているカバですが、実は凶暴で、縄張りを守るためには人を襲うこともある。豊かさの裏に危険な部分があるなんて、まるで本そのものだと思いませんか? 店を作ろうと思ったとき、最初にキャラクターをカバにしたいと考えて、イラストレーターであり漫画家のerror403(エラーヨンマルサン)さんにロゴを依頼しました。店名を決めたのはロゴが完成してからです。
── お店に入るとまず目に入るのが、右手にある児童書や絵本と左手にある文庫。この配置にこだわりは?
店頭に専門書がどんと置いてあると、入りづらいイメージを抱かれてしまうんじゃないかと思いました。店の前を通りかかった人たちが、自分とは関係ないお店だと思ってほしくないので、入り口付近には手に取りやすい本を並べています。東洋文庫が近いこともあり、研究者や学芸員の人だけではなく、ミュージアムの帰りに立ち寄ってくださる方も少なくありません。奥には専門書も揃えていますが、店頭にいきなり難しそうな本が並んでいると興味がない人は引いちゃいますよね。できるだけ入りやすい店にするための戦略的配置です。

── トークイベントだけではなく、著者が「半日店長」を務める試み、おもしろいですね。
お店にいきなり著者本人がいたら、おもしろいかなと思って。著者のトークイベントもいいけれど、もっと自由さを求めて始めたのが「半日店長」です。カメラマンの加瀬健太郎さんに来てもらったときには店内で写真の展示をしましたし、絵本作家のほしぶどうさんのときはパネル展とともに、ほしぶどうさんにお客さんの似顔絵を1枚2,000円で描いてもらったりもしました。トークイベントはほぼ月1回のペースで、元『STUDIO VOICE』編集長の品川亮さんを聞き手にさまざまなゲストを招いて行っています。
新刊と古書を、同一テーマで紹介する棚
── コーナーによっては、新刊と古書をあえて一緒に並べているのですね。
たとえば、戯曲に興味がある人は、新刊か古書かは関係なく、おもしろそうな本があれば手に取ると思います。青年座の俳優さんが実際に使っていた台本のそばに新刊の戯曲集を置くなど、テーマに合わせて自由に構成しています。次は「サボテンコーナー」を計画しています。龍胆寺雄(りゅうたんじ・ゆう)という昭和初期に活躍したモダニズムの流行作家は、実はサボテン研究家としても有名です。彼は栽培方法やエッセイなども書いているので、人気の文学作品とともにサボテンの写真集や実用書もまとめてひとつのコーナーにする予定です。

── 文学が1番売れるジャンルとのことですが、小国さんはどの作家がお好きなのでしょう。

第二次世界大戦後に活躍する、いわゆる「戦後派」とは別の、「第三の新人」といわれたグループが好きですね。吉行淳之介や遠藤周作、庄野潤三などが代表的な作家ですが、なかでも小島信夫と安岡章太郎の作品に惹かれます。大きな物語を大上段に振りかざして描く作品より、身の回りの細々としたことを描きつつ、大きな物語につなげていくのが好みです。「第三の新人」のなかには若い頃、一兵卒として従軍した人もいて、戦争についての描き方も一様ではなく興味深い。安岡章太郎と遠藤周作は慶應義塾大学時代に親交があったようで、安岡が書いたエッセイなどは遠藤周作の意外な一面も垣間見えて本当におもしろいんですよ。
新刊書店に古書を卸すことで、本屋の可能性を広げたい
── いま、街の本屋さんに求められていることは何だと思いますか?
ネットは探している本が決まっているときは便利だし、おすすめの本もかなりの精度で出てきますが、あれで読書が成立するとは思えません。そういえば興味があったかも……という無意識の欲望を刺激することがリアル店舗にはできますし、何気なく手に取った本がその後の人生を変える1冊になることもある。街の本屋として、自分では気づいていなかった興味や関心を刺激する場であり続けたいと考えています。偶然の出合いこそが読書の幅を広げますし、店で古書と新刊の両方を扱っているのはそのためでもあります。
── 本との偶然の出合いを提供するために、今後挑戦したいことはありますか?
古書と新刊の垣根をもっと低くして、本屋の可能性を広げていきたいと考えています。新刊書店が古書を調達するのは難しいので、“新刊書店に古書を卸す仕事”をもっと増やしていければなと思います。新刊書店が利益率で苦労するのは、書店員時代の経験からもよくわかっています。古書はリスク込みで買い取らなくてはいけないし、販売チャンスも少ないけれど、値付けは自由。新刊書店が古書を扱うことで、お店にとっては利益率も上がるし、お客さんにとっては出合いの場が広がる。その相乗効果を狙っていきたいですね。

本を好きな人にとっては古書か新刊かではなく、おもしろいかどうかが重要なポイントだという小国さん。すでに上野駅構内・エキュート上野に入っている「アンジェ ビュロー」という店には、古書を卸しはじめているそうです。フェア台を設置して、新刊と古書をパッケージで紹介すると、手に取る人も増えるのだとか。自身の店だけではなく、新刊書店にも“本との出合い”を生み出す試み、広がっていくといいですね。


BOOKS青いカバ 小国さんのおすすめ本
『キオスク』ローベルト・ゼーターラ―(東宣出版)
ナチズムが台頭しているウィーンが舞台。売店ではたらく少年が精神学者・フロイトとの交流を通して、悩みながらも成長していく物語です。少年はボヘミアの女の子に出会い恋をするのですが、最後の場面が切なくて。お金がないと亡命もできない社会や人間を鋭く見つめている少年の視点が印象的です。
『百年の薔薇 芥川の家の中で』芥川瑠璃子/芥川耿子(春陽堂書店)
芥川龍之介の姪であり、長男・比呂志の妻である芥川瑠璃子。その娘・耿子(てるこ)が芸術一家・芥川家にまつわるさまざまなエピソードを綴ったエッセイで、母・瑠璃子の詩も収められています。母親・瑠璃子の晩年、耿子が車いすを押すシーンはとくに美しい。別れの場面は、胸に迫ります。

BOOKS青いカバ
住所:113-0021 東京都文京区本駒込2-28-24
谷口ビル1階
TEL:03-6883-4507
営業時間:月~土 11:00 – 21:00、日・祝 11:00 – 19:00
定休日:毎週火曜
http://www.bluekababooks.shop/


プロフィール
小国貴司(おくに・たかし)
1980年、山形県生まれ。学生時代より古書に親しみ、卒業後はリブロに入社。店長や本店での仕入れ・イベント企画などに携わったのちに独立。2017年1月に新刊・古書を扱うBOOKS青いカバをオープン。


写真 / 千羽聡史
取材・文 / 山本千尋

この記事を書いた人
     春陽堂書店編集部
     「もっと知的に もっと自由に」をコンセプトに、
     春陽堂書店ならではの視点で情報を発信してまいります。