そのはなしひろがってるかもね みんなどうなったんだろうな

ときどき、ふっとおもうことがある。みんなどうなったんだ、と。

みんなどこいっちゃったんだ、でもない。

みんなどうなったんだ。

だからといって知りたいわけでもないんだけれど。もしみんなのいまについて知りうるチャンスがあったとしても知らないでいいなとおもうとおもう。ハッピーでもふこうでもどっちでもいいとおもう。ながくいきたらいいとおもう。そう、おもう。

でも、ねるまえに電気をけしたときに、スイッチをおしたゆびの感触をのこしながらふとんにはいったときに、おもう。みんなどうなったんだ。

家をでて、駅まではしり、改札口で財布をわすれたときに、おもう。みんなどうなったんだ。

やすふくさんから霊の話をきく。わたしは、なんでもつづけてるとどんなものでもみえてくるんですよ、川柳だってつづけてると川柳の霊みたいなものがみえてくるし、と言ってしまう。やすふくさんが、うーん、と言ってわたしはおもう。みんなどうなったんだ。

ひとと喧嘩しているときに、空で星が鳴っているようなきがして、口ではなにかいいながらちらっと見上げると、星が輝いている。わたしは、そんなことおもったことなんていちどもないってば、といいながら、おもう。みんなどうなったんだ。

あとがきを書き上げました、と相手に送る。依頼された相手の句集のあとがきだったから。相手は、どうしてこのあとがきのなかでわたしのことをさん付けしたり呼び捨てしたりするんですか? ときいてくる。いったいなんなんですか、と。わたしは、おもう。みんなどうなったんだ。

夕方ふいに抱きおこされて、だいじょうぶだよ、だいじょうぶじゃないかな、わかんないけど、といわれる。どっちが夢なのか、わたしは眼を白黒させて、わたし今どうなってんだ、とおもいながら、おもう。みんなどうなったんだ。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター