おまえにすぐに会いたいだとかじぶんに火の魔法つかったりだとか

なんでこんなにいつもこんらんしてるのかなあとおもう。こんらんすることなんてなんにもないのに。

階段もうまく降りられない。階段をよく見て降りればだいじょうぶだよなと信心深く胸に手をおいてこれから降りる階段をよく見るのだが階段ってよく見るとなんだか錯視のようにごわごわ渦のようになりはじめるのでこれますます降りられないぞと思ってなんだか崖の切り岸にたたされたひとのように階段の手すりを両手でもつ。階段を降りるときは、これから降りるぞとおもってはいけない。ただ、降りるのである。意識したら、もう、渦だ。

百発百中でめまいのするバーミヤンの階段が目黒にあって、むかし、女の子と行ったときに、どうしよう、この階段、のぼれても、うまく降りられないんだよな、とおもった。食事もおわって、女の子がかつかつ降りていくなか、さきいってて、わすれものしたみたいなんだ、なんかなんかを、とわたしは言って、女の子の姿がみえなくなってから、手すりにしがみつきながら、ゆっくり、一段一段降りた。砲撃をくらうなか傾いた船の階段をおりてゆく下っ端の海賊みたいに、ゆっくり、おりてゆく。人生ってこんなかんじなのかなあとおもう。これからわたしにいいことがあるだろうか。すばらしいことやいだいなことがあるだろうか。わたしは手すりをしっかりともつ。のに、渦。

「なんであなたはそんなにこんらんしているの? 状態異常なの?」と言われることもある。
「状態異常? ゲームじゃないんだからね。こんらんしてじぶんを攻撃したりなんかはしない。ふつうだよ。すごくふつうにいきてきた。これからもそうするつもり」

わたしは見えない手すりにしがみつく。渦。神様はたぶんひとりひとりにいろんなものをさずけてくれたけれど、わたしには見えないてすりをくれた。渦も。

なんでそんなにこんらんしてるの? あなたなんにもしてないんでしょう? と言われる。わたしはこんどはデニーズにいる。いそがしいが、こんどのわたしは、いま、デニーズだ。わたしは、ストローをくわえようとしている。

「これ、メロンコーラっていったっけ?」「うん、メロンコーラ」「メロンコーラって、なに? なんでそんな自由なんだ」

ストローはあっちこっちにうごく。くわえようとするたびに磁力か大地の力なのか風なのかわたしのくちびるをよけてあっちこっちにうごきつづける。これもまた渦なのか。くわえようとするとくわえられない。どうしたんだよ、ストロー。デニーズにも風が吹くのか。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター