ひとの歯に暗闇で舌がふれる

暗闇の温度って、どれくらいだろう。暗闇の速さはどのくらいだろう。今まで世界のなかで誰が暗闇からいちばん受け入れてもらえただろう。

手や足、眼や口、舌、歯、おなかや性器、髪や耳、どのからだの部位がくらやみと親しくできるだろう。

暗闇の量をはかったひとはいるだろうか。世界の暗闇は有限だろうか。暗闇を資源にできないだろうか。

もしくは、わたしが、暗闇といちばん無縁の日はいつだったか。

どうしてその日をわたしは日記につけておかなかったのか。

そう言えば、くらやみのなかでしか会ったことのなかったひとはいなかったか。

そのひとはなんと言ったのか。

せまく、くらく、テレビとベッドとテーブルがひしめきあった部屋で、「ここもひとつのはじまりだからそんなに暗くならないで」と言ったのか。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター