ぜんぶわかってたって泣きながら鳥の巣を探す
ずっと鳥の鳴き声がきこえていて、近づいたり遠のいたりしている。くるはずのなかった電話もきたので、鳥がね、あたりにいるようなんだよ、とわたしがいうと、鳥はどこにでもいるでしょ、ここにもいるわよ、という。「そうそう、わかってる」
そうなんだけどね、といって、わたしは受話器をかかげる。こうするとあなたにも聞こえるかなとおもって。
「どう?」「うそでしょ、きこえるわけないじゃない、なんかあつくてどうかしてるんじゃないの」「そう」
わたしは電話しながらさっきまで梱包につかっていた大きな鋏の峰をなんとはなしにゆびでゆっくりなぞっていた。布も厚紙も切り裂くことのできる巨大なステンレス製の鋏。
部屋をでて、すこしだけ、鳥の巣をさがす。鳥の巣をさがしたことなんて生きてきてはじめてだ、と思いながら。あのこにたぶんこのこと話したらおもしろがるだろうな、あのここういう話きっとすきだから。でも、このさき、会うことなんてあるのかな、ともおもう。
鳥の声は、ちかづいたり遠のいたりしている。わたしはときどき、なんというか、じぶんがすごくふとったように感じることがある。あなたすごくふしぎなふとりかたをしてるわよ、といわれたこともあった。それいったの、あのこだったかな。
わたしが壁にもたれると、鳥がとびたつ。もう会うことはないんだろうな。 おおきな鋏を落としたような金属音をあげて、どんどん、とおざかってゆく。何が。何かが。