ネット通販の普及と活字離れの影響で、昔ながらの街の本屋さんが次々と姿を消しています。本を取り巻く環境が大きく変わりつつある今、注目されているのが新たな流れ“サードウェーブ”ともいえる「独立系書店」です。独自の視点や感性で、個性ある選書をする“新たな街の本屋さん”は、何を目指し、どのような店づくりをしているのでしょうか。


【連載6】
本も本屋も、ひとりきりではつくれない
SUNNY BOY BOOKS(東京・学芸大学) 髙橋和也さん


「本屋になろう」と思い立ち、突き進んだ道
2013年6月にオープンした「SUNNY BOY BOOKS」(サニーボーイブックス)は、東急東横線・学芸大学駅の東口商店街を抜けた住宅街の一角に店を構えています。わずか5坪の店舗に、本や雑貨がところ狭しと並べられているのですが、この空間に身を置いてみると妙に心が落ち着きます。学生時代から将来は本屋をやろうと店の名前まで決めていたという店主の髙橋和也さん。この地に店を開き、5年という区切りの年、高橋さんには思うところがあるようで……。

── 髙橋さんが本屋になろうと決めたのは学生時代とのことですが、何がきっかけだったのでしょう。

大学では心理学を学んでいたので、入学当初は臨床心理士を目指して大学院へ行こうと考えていたのですが、1年が終わらないうちに自分のやりたいことはこれじゃないと感じるようになりました。空き時間はずっと図書館にいて、ひたすら本を読む日々が続くなかで、あるとき「将来は本屋になろう」と感覚的に思ったのです。小説家で翻訳家の小野正嗣さんと出会ったのもその頃ですね。フランス語の先生が小野先生でした。卒業間際、「僕は本屋になります!」と小野先生に伝えたら、とても驚かれました。
── 卒業後の就職先は、やはり書店ですか?
実は、ある書店に内定していましたが、インターンとしてひと足早くはたらきはじめたときに、学びたいことがここにはないと感じてしまいました。結局、就職を辞退。卒業後は個性的な選書やフェアをしている青山ブックセンターにアルバイトとして入りました。早々に棚を任せてもらえましたし、フェア企画も担当するようになって、仕入れや棚作りなどをイチから学ぶことができました。書店と並行して、ハンバーガー屋でもはたらきましたが、ここでの経験は個人店の経営という面で、いまとても役立っています。

── なぜ古書メインの店にしようと思ったのですか?
自分ひとりでやりたかったので、新刊だと取次や出版社などに、小さな規模だと相手にされないんじゃないかなと思ったのです。古書に関しては誰にも学ばず、実践で値付けのし方などを身につけていきました。書店員時代からつきあいのあった出版社の新刊などは、オープン当初から少しは置いていましたが、作家さんたちと交流するようになり、新刊の割合が増えていきました。いまは新刊が3割くらいでしょうか。この規模では利益率など考えると、古書7割、新刊3割がギリギリのバランスかなと思います。
架空の人物「サム」から広がる空想物語
── 企画制作部門では、どのようなものを作っているのでしょうか。
「サニーな散歩道 学芸大学と祐天寺よりみちマップ」という無料配布用のエリアマップは、お店に協賛金を募り、デザインや印刷などを制作部門のSUNNY BOY THINGS(サニーボーイシングス)で請け負っています。2017年4月には、銅版画家・タダジュンさんの作品集『Dear,THUMB BOOK PRESS―親愛なる親指へ―』を出しました。架空のプライベートプレス「THUMB BOOK PRESS(サムブックプレス)」を主宰していたサムが銅版画で装丁した小説20冊。それをタダジュンさんに作ってもらいました。

── この企画は髙橋さんの考案ですか?

私も本のセレクトや設定を考えますが、作家さんと話し合いながら形にしていきます。サムの死後、プライベートプレスが貴重なコレクションになっているということにして、実在の作家や画家のみなさんに、コレクターという体で寄稿してもらいました。サムはパリでヘミングウェイに会ったり、ファーブルと同じ死因だったりと、本好きの人には「これはもしや?」と思っていただけるような設定にしています。下北沢の「本屋B&B」でトークイベントをしたときに、画家の網代幸介さんが即興で生み出した女性の版画。その女性を「ナターシャ」と名づけ、構想を膨らませてできたのが、網代さんの画集『Огонёк(アガニョーク)』です。「アガニョーク」とは、ロシア語で「ともしび」という意味です。
自慢できるのは、人に恵まれていること
── 髙橋さんの自由な発想がどんどん形になっているのですね。
内定を辞退してアルバイトで修業したこと、この場所に店を構えたこと、いま店に並べている本や制作物など、すべて自分の“感覚”を信じてここまできましたが、自分のやりたいことをやってこられたのも、多くの人に支えてもらってきたからです。「ひとりで本屋をやりたい」と思い立ち、当初は「ひとり」にこだわってきましたが、オープンして5年経ったいまあらためて思うのは、本屋や本をつくるのは、ひとりきりではできないということ。私が何より自慢できるのは、周囲の人たちに恵まれていることです。
── これから挑戦したいことはありますか?
本を出版したことで、地方の本屋さんと話したり、地方でイベントをしたりしているうちに、「地方で本屋をやってみたい」という気持ちが芽生えてきました。妻が沖縄県出身なので、いまは気持ちが沖縄にリンクしていますが、この先どうなるかはわかりません。ただ、本屋になろうと思ったこと、ハンバーガー屋でアルバイトしたこと、店名や選書にいたるまで、“感覚”で決めてきたことが、いまにつながっているので、東京ではないどこかにSUNNY BOY BOOKSを新たにつくることも夢じゃないかもしれませんね。

店を構える前から選書を担当していた武蔵小山の「ハイマットカフェ」やアルバイトしていた「青山ブックセンター六本木店」など、ご縁のあった店が次々に閉店したことを寂しげに語っていた髙橋さん。開店5周年という区切りの年だからこそ、ことさら感慨深いのかもしれません。髙橋さんは自分の“感覚”を信じるけれど、決して押しつけたりしない人。その人柄に魅せられて、素敵な人が集まってくるのですね。


SUNNY BOY BOOKS髙橋さんのおすすめ本
『ファミリー・ライフ』アキール・シャルマ著/小野正嗣訳(新潮社)
インドからアメリカに渡った移民一家を描いた自伝的小説。プール事故がきっかけで意識が戻らなくなった兄、介護に疲れる両親を弟の視点から綴った作品で、少年の心の成長が丁寧に表現されています。翻訳者の小野先生もお兄さんを亡くされているので、共感する部分が多いのか、繊細な訳が心にしみます。
『板画・山頭火』秋山巌/種田山頭火(春陽堂書店)
山頭火俳句の世界を彫り続けた版画家・秋山巌の作品集。棟方志功に師事した秋山巌の木版画は、とにかく力強い。猫やふくろうも味がありますが、印象的だったのは風を描いた画です。秋山巌が山頭火を知ったのは放浪していた旅先なのだとか。放浪する者同士、思考までがともに旅をしているかのようです。

SUNNY BOY BOOKS
住所:152-0004 東京都目黒区鷹番2-14-15
営業時間:12:00 – 21:00
定休日:毎週金曜
http://www.sunnyboybooks.jp/


プロフィール
髙橋和也(たかはし・かずや)
1986年、千葉県生まれ。学生時代に本屋になることを決意。卒業後は社員募集がなかったのでアルバイトとして青山ブックセンターに勤務した。2013年にSUNNY BOY BOOKSオープン。制作部門「SUNNY BOY THINGS」や古本ユニット「本屋の二人」などの活動のほか、カフェや雑貨店の本のセレクトも行っている。


写真 / 千羽聡史
取材・文 / 山本千尋

この記事を書いた人
     春陽堂書店編集部
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