鍵と水を持ってふたりで歩き抜ける

ホテルを幽霊みたいに歩く女の子がいて、「幽霊みたいにあるくんだね」といったことがある。

「霊ってさ、みたことないけどね、あなたみたいに歩くんだろうね。床と平行にね、すーすっすって」「なんなの?」「いや、すっすっすって、あるくから。だってなんか重いものもってるんだよね。鍵束とか。鍵束は重くないか。でも鍵をたくさんもってんだね。そんな鍵もってたっけ。家の鍵でしょ、車の鍵だよね。これは病院の? なんなの、って言われてもね。霊の話だよ。霊の話だけど、あなたの話だよ。霊の話じゃなくて」「あのさ、情報が多すぎないかな、会話に」「いろんなものがおおすぎるよ」

そのホテルはまわりを畑で囲まれたとてもさびしいところにあって、ひとってこんなさびしい果てのようなところに来なくちゃいけないことがあるのか、と思った。「はやく帰りたいね」と言ったら、「え」と言われた。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター