うん、波でいいよ うん、じゃあ波で

困ったなという顔をして、こんにちは、と言われたことがある。とつぜん出くわしたからとても困ったのかもしれない。今まで帰るためにちゃんと確認しながらひとつひとつ落としてきたパン屑がいっきに風で吹き飛ばされて森で迷ったときの顔をしていた。迷ったんだ、とわたしはおもった。迷ってしまって、困ってしまって、なんともいいようがなくて、こんにちは、というしかないじゃないの、というかんじで。

困ったときってこんにちはっていうしかないようなときがあるよなあ、とおもう。本屋だったとおもう。本屋で、こんにちは、といわれるなんて、なんだか変なきもしたが、ほかにいうべきことももたなくて、わたしも、こんにちは、と言った。

お互い、とつぜんまたであって、こんにちは、と言い合っていた。本屋で、本以外のりゆうで、迷っていた。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター