春に届いたてがみを秋にあける(こわかったので)

てがみを開封する勇気ってみんなどうやって蓄えてるんだろう。ねむってるときに手を重ねあわせたりしながらたくわえてるんだろうか。てがみをひらくゆうきを。手をかさねあわせてそのうえに顔をおいて眠ったりしますよね。

それとも自転車をこいだりするとそのエネルギーで手紙の勇気がたまったりするものだろうか。あるいは人と手をつないで歩いたときに手紙の勇気をあいてから吸い取るとか。手に包まれた手から。

春にとどいたてがみを秋にあけたことがある。なんだかこわかったので。てがみをあけたら、なかから、猫のおもちゃがころころでてきた。ちびっちゃい猫のおもちゃがたくさん。それからわずかな紙にわずかな文章が書いてあって、あなたいい声してるね、また春にあえたらあいましょうと書いてあった。もう秋だ、とわたしはおもった。

てがみをひらきなさい、と怒鳴られたことがあった。昔、わたしは、星のことで怒鳴られたことがあったが、こんどは手紙かあとおもった。星のことや手紙のことで怒られたりする。こんな年になっても。

もうずっと残ってなさい! と言われた。

いや、でも、どこに、とも聞けず、わたしはできるだけ底のほうに底のほうに流れこんでいった。秋にあけるよ。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター