ネット通販の普及と活字離れの影響で、昔ながらの街の本屋さんが次々と姿を消しています。本を取り巻く環境が大きく変わりつつある今、注目されているのが新たな流れ“サードウェーブ”ともいえる「独立系書店」です。独自の視点や感性で、個性ある選書をする“新たな街の本屋さん”は、何を目指し、どのような店づくりをしているのでしょうか。


【連載7】
目指すのは、「智」の泉に人が集まる「ブックパーク」
双子のライオン堂(東京・赤坂)竹田信弥さん


「いつか」ではなく「いま」。高校時代に始めたネット古書店

東京メトロ千代田線・赤坂駅から徒歩5分、本の形をした青い扉が目印の「双子のライオン堂」は、週に4日しか営業していない「選書専門」の本屋さんです。店主の竹田信弥さんは、高校生時代にインターネット古書店を開設。2013年4月に文京区白山に実店舗の選書専門店をオープンし、赤坂に移転したのは2015年10月のこと。「100年続く本屋」と「選書専門店」、独自のコンセプトはどのようにして生まれたのでしょうか。
── 高校生のときにインターネット古書店を始めようと思ったのは、どうしてですか?
高校1年の頃、周りの友達とうまくいかず、学校に行けない時期がありました。対人恐怖症になって電車にも乗れないほど。その後、学校には通えるようになりましたが、疎外感は消えなかった。そんなとき、北尾トロさんの『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』(風塵社)に出合い、お店を開いたら何か変わるかもしれない、自分もやってみたいと強く思いました。「いつか」ではなく「いま」やればいい。そう思い立って父に相談し、ネット古書店を開設したのは高校2年の秋です。

── そのとき、反対しなかったお父さんの存在は大きいですね。

両親は学校に行けず悩んでいた私を、そばで見ていたこともあり、協力してくれたのだと思います。ありがたかったですね。当時は17歳だったので、古物商の免許をとるときも前例がないという理由でとても時間がかかってしまい、自分で読んだ本を売ることから始めました。その後、学生時代、社会人時代と細々と続けていましたが、本が売れないことをメディアがとり上げ始めた頃、京都造形美術大学の東京芸術学舎主宰「いつか自分だけの本屋を持つのもいい」に出席して、内沼晋太郎さん、ブックトラックの三田修平さん、ユトレヒトの江口宏志さん、森岡督行さんなど、本で新しいことを始めている人たちの話を聞いて感化され、独立して実店舗を持ちたいと思うようになりました。そのときはもう結婚していたので、生活に必要なお金は複数の仕事でやりくりしつつ、無理のない形でやっていくことにしたのです。
── 週4日営業というのも、無理せずやっていくための方法ということでしょうか。
そうです。古本中心にすれば、本屋だけでやっていけなくはないかもしれないけれど、それでも厳しいだろうし、やれることは限られてくる。どこかに無理を強いることになる。自分にとって理想的な形でないと長く続けられないと考えました。100年後、周りに本屋というものがなくなったとしても、1軒でも残っていたら本屋の存在価値を問い直せる。そんな思いで「選書専門」と「100年続く本と本屋」をコンセプトに掲げました。当初は古書が多かったけど、「選書専門」というからには、選者にセレクトしてもらった本を確実に仕入れないといけないので、自然と新刊の扱いが増えていって、いまでは7割が新刊です。古本か新刊かにはこだわりはありません。
「その人の本棚を見たい」そう思った人に選書を依頼
── 「選書専門」にしようと思ったのは、なぜでしょう。
山城むつみさん、辻原登さんなど、大学時代にお世話になった先生方の研究室にある本棚がとても魅力的で、それを再現したいと考えたのが選書専門にしようと思ったきっかけです。文系理系、エンタメなどバランスを考えて、知り合いの作家やライター、編集者などにも声をかけ、10人くらいの選書者でスタートしました。いまでは28人に選書してもらっています。少しずつ増やしていって、いつか100人まで増やしたいと思っています。選書者を選ぶときのポイントは、私がその人の本棚を見たいと思うかどうかです。

── 「版元やおよろず」「出版社全巻フェア」というブックフェアについてお聞かせください。

「版元やおよろず」はおもに小さな出版社の本を紹介するイベントです。最近、本に関するイベントが増えています。小規模の出版社は人手が足りないのに、編集者もかりだされる。人がつきっきりでいなくても楽しんでもらえて、いろんな本に出会える場を作りたいと始めました。編集者には編集をして欲しい。30社くらいで始めて、いまではイベントパッケージのような形で地方のブックカフェでも実施しています。「出版社全巻フェア」は、その名の通り一つの版元の全巻またはシリーズ全てを並べます。なかなかインパクトがあります。出版社の倉庫に隠れていたバックナンバーが並べられることもあり、お客さんにも好評です。
なくてはならない場所になれば、人は集まる
──竹田さんにとって、理想の本屋とは、どのようなものでしょうか。
本の中にあるものは、つきつめれば智だと思っています。智というのは、水や日光のように人にはかかせないもの。そこに行けば、誰でも本に触れることができる場所、森林浴ができる公園のような存在であることが理想の本屋ではないかと思います。なので、よどんでいたりする池や沼ではなく湧水の出ている泉や水飲み場、オアシスのようなイメージ。なくてはならない場所になれば人は集まります。その街が必要とする形、求めるものは街によって違ってくると思いますが、心豊かになるために人々が集まる「ブックパーク」になれるといいですね。
── これから挑戦したいことはありますか?
長野にあるワイナリーの一角に「双子のライオン堂」選書図書館を設置して読書会を行ったり、「版元やおよろず」のコンテンツを地方で展開したりと、これまでも本に触れられる場所を増やしてきましたが、もっと増やしていきたいですね。スリランカやガーナで図書館をつくる支援もしているのですが、発展途上国にとって本は心の支えであり、知識を吸収することは自分や家族の身を守ることにもつながります。本の自動販売機的なものを世界各地に配置できたら……。適当な自動販売機がないか、いつも探しています(笑)。

店内にある本のうち、竹田さんがセレクトしているのは約3割。内容はもちろん、手触りや匂いなど本の質感までこだわって仕入れている竹田さんですが、これから先は電子書籍や音読も含めたコンテンツとしての本にも目を向けていく必要があると考えているそうです。本の自動販売機や独特なフェアなど、100年続く本屋にするための自由な発想は、留まるところを知りません。


双子のライオン堂 竹田さんのおすすめ本

『ドン・キホーテ』全6冊 セルバンテス著/牛島信明訳(岩波文庫)
初老の男が騎士道物語を読み過ぎて妄想にとらわれ、自分を騎士だと思い込んで冒険の旅に出る物語。ドン・キホーテは周囲からバカにされ、無駄だと言われても信じる道を突き進みます。自己満足ではあるけれど、信じ続けることである到達点にたどり着く。学生時代はこんな大人になりたいと思ったものです。
『江戸川乱歩文庫 幽霊塔』江戸川乱歩(春陽堂書店)
主人公の青年・北川が、幽霊塔と呼ばれる不気味な時計塔のある屋敷で絶世の美女と出会う冒険譚であり怪奇譚、そして恋愛要素も加味された乱歩の集大成ともいえる作品。宮崎駿をはじめ、数々のクリエイターが影響を受け、新たな作品が生み出されています。時代を超越した乱歩の魅力を味わってください。

双子のライオン堂
住所:107-0052 東京都港区赤坂6-5-21
TEL:050-5276-8698
営業時間:水~土曜15:00 – 21:00
定休日:毎週月・火曜。日曜は不定期
https://liondo.jp/


プロフィール
竹田信弥(たけだ・しんや)
1986年、東京都生まれ。高校時代にネット古書店を開業。卒業後はベンチャー企業へ就職し、一度、転職をするも「本」への思いが断ち切れずに、本屋を本業にしたいと独立。2013年4月、文京区白山に双子のライオン堂実店舗を開店。2015年10月、港区赤坂に移店。特定非営利活動法人ハッピーブックプロジェクト代表理事。一般社団法人SPUTNIK International理事。


写真 / 千羽聡史
取材・文 / 山本千尋

この記事を書いた人
春陽堂書店編集部
「もっと知的に もっと自由に」をコンセプトに、
春陽堂書店ならではの視点で情報を発信してまいります。