電話きてゆるくやさしくいとおしくねむくさびしくちょっとだけすごい
猫と電話させてくれるというので、もしもし俺なんだけど、と言うと、相手、相手といっても猫だが、黙っている。
わたしもよくしゃべる人間ではないので、しばらく黙って耳をすませていると、相手もだまっている。猫だが。
さいきんいいかんじだよとても、とわたしはいう。ちょっとしたうそを。
あいては、だまってる。
あとね、げんきだよ、めずらしく。うそだけど。
にゃあ、とさえ言わない。なんなのか。
ねえきいてる? といっても、だれもなんにもしゃべらない。ほんとうに猫がいるんだろうか。フェイク猫じゃないのか。ねこねこ詐欺というか。あのさ、俺、猫なんだけど、という。
あのさ、もういいよ、となんとなく飼い主に話しかけても、飼い主もだまってる。
わたしはふっとこんなことをおもう。映画の『クレイマー、クレイマー』では妻と別れたダスティン・ホフマンがさいごにはフレンチトーストをつくるのがとってもじょうずになった。わたしもいつかそうしよう。