叶ったふとんも叶わなかったふとんも落ちている

日比谷線に乗ったら広告として天井に羽毛布団がびっしり貼り付けられてあった。

ふとんの俳句と言えば、わたしはずっと西原天気さんの句が好きだ。

  県道に俺のふとんが捨ててある  西原天気(句集『けむり』)

大学院にいた頃、図書館にふとんを持ち込めたらいいのになあと思ったが、そのふとんは叶わなかった。思い返せば、いろいろ叶わなかったふとんがある。押入に、懐中電灯とふとんを一緒に持ち込んで、叶ったふとんも。

女の子の家に行ったとき、これまでの思い出の物ばかりが集められた思い出の部屋があって、ここにふとんはもちこまないの、と言っていた。ふとんをもちこむのは和室なの、ふとんを和室に運んで、と。わたしは、はい、と言った。

いろんな場所にふとんが敷かれ、持ち込まれ、そのふとんのうえを、複数のひとがのぼったり降りたりする。叶ったふとんも叶わなかったふとんも。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター