いつどこでだれといたって伸びる髪

漱石の「夢十夜」の第一夜では、男が女から「百年待っていてください」と言われる。ちょっと足りない野菜でも買ってくるよう言われる感じで、百年待ってろ、と。

『三四郎』も『それから』も『行人』も『明暗』もそうだけれど、漱石の小説では、男が愛を女から試されるのかもしれない。もしかしたら漱石の男たちがクレイジーになるのは、試されて試されて試された果ての狂気なのかもしれない。

アニメ『ニルスのふしぎな旅』の「月夜に浮かぶ幻の街」では、百年に一度助けられる死んだ街のひとたちをニルスが助けそこない、みんな、また、死んでいく。ニルスは百年は生きられないだろうから、街のひとたちは、また百年、二百年、三百年、待たなければいけない。

街のひとたちは百年も待ってる。生き返るために。漱石の男は百年も待ってる。生き返るのを。

大勢の百年の孤独。一人の百年の孤独。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター