夢二の著書 ①『露地の細道』と『露地のほそみち』
竹久夢二美術館 学芸員 石川桂子
夢二は明治42(1909)年に『夢二画集 春の巻』を刊行して以来、生涯に57冊の著書を世に送り出しました。画家としての領分にとどまらず、夢二は文才を発揮して、詩・童謡・短歌・俳句・エッセイ等を書き表して、詩画集、歌集、童話集、童謡集など多岐にわたる内容で出版を重ねました。
そして文章に添える挿絵は勿論のこと、装幀も大部分は自身で手掛け、表紙・カバー・帙(ちつ)・函(はこ)・見返し・扉の各所のデザインにも力を注ぎ、夢二は本全体を美しく彩り、かつ愉しめるように工夫を施しました。
多数の出版社より夢二の著書は刊行されましたが、春陽堂からは大正8(1919)年発行の『露地の細道』を皮切りに、『夜の露台』『歌時計』『あやとりかけとり』『露地のほそみち』『露台薄暮』『春のおくりもの』の7冊が出版されました。
今回は春陽堂で最初に手掛けた『露地の細道』と、新装改訂版『露地のほそみち』にまつわるエピソードを紹介します。
『露地の細道』 大正8(1919)年3月20日 発行
本書は、恋を題材にした昔の小唄(三味線のつまびきに合わせて歌う短い曲の歌)を131編収録しています。「無名の楽人が、唄によせた嬉しい哀しい心意気」(「舌代」より)を汲み取りながら選んだ唄で編まれ、夢二好みの小唄が存分に味わえる一冊です。かつて夢二は、『大阪毎日新聞』が大正2(1913)年に行ったアンケート「名家の嗜好」で、最も好きな音楽という質問に、「三味線にてうたう日本の唄」と回答したこともあり、小唄をこよなく愛好していました。
表紙【図①】は小唄を題材にして、粋な着流しに網代がさを被った三人の男性が、三味線を爪弾き、唄に興じる様子が描かれています。
そしてこの本の最大の特徴は、副題に添えられた「絵入情歌」の言葉が表すとおり、挿絵として木版画が11枚挟まれていることです【図②】。浮世絵に描かれた遊女を思わせる美人画を中心に、江戸情緒とデカダンな趣の漂う木版画は、腕の良い職人を抱えていた春陽堂だから実現したもので、小ぶりながら非常に贅沢な造りの書籍です。

①『露地の細道』(表紙) ※写真は再版


『露地のほそみち』 大正15(1926)年11月29日 発行
版を重ね好評だった『露地の細道』ですが、大正12(1923)年に発生した関東大震災で絶版となりました。そこで編集者の希望で新装改訂し、タイトルも表記を改め『露地のほそみち』【図③】として、出版の運びとなります。本の判型は、三五判(縦152mm×横91mm)から、四六判(縦188mm×横127mm)へ、ひと回り大きくなりました。

③『露地のほそみち』(函・表紙)

④『露地のほそみち』挿絵の東京風景
※スケッチ余白に「常盤橋 紀元二千五百二十七年建立 Dec 1918 写」と記されている。

⑤『露地のほそみち』挿絵の仕切判
※東京・根岸の豆富料理「笹乃雪」



⑥『露地のほそみち』に挟みこまれた木版絵

⑦『露地のほそみち』に挟みこまれた木版絵と薄様紙
春陽堂の強みを活かし、夢二の他の著書も美しい木版によって、表紙や挿絵が飾られました。それを実現させたのは、先の謝辞に挙げられた「島源四郎」(しま・げんしろう)という春陽堂の編集者による尽力がありました。
次回は、夢二と島源四郎の交流について紹介したいと思います。
(写真と図は、すべて竹久夢二美術館所蔵の作品です)
『竹久夢二という生き方 人生と恋愛100の言葉』(春陽堂書店)竹久夢二・著 石川桂子・編
画家、デザイナー、詩人として活躍し、多種多様な作品を遺した竹久夢二。彼の日記・手紙・エッセイ・詩の中から<人生>と<恋愛>についての言葉を選出。挿絵は大正3年刊行の『草画』から使用。時代を超えて愛される、ロマンチストの格言集。
画家、デザイナー、詩人として活躍し、多種多様な作品を遺した竹久夢二。彼の日記・手紙・エッセイ・詩の中から<人生>と<恋愛>についての言葉を選出。挿絵は大正3年刊行の『草画』から使用。時代を超えて愛される、ロマンチストの格言集。
┃この記事を書いた人
石川 桂子(いしかわ・けいこ)
1967年、東京都生まれ。竹久夢二美術館学芸員。編書に『大正ロマン手帖──ノスタルジック&モダンの世界』『竹久夢二♡かわいい手帖──大正ロマンの乙女ワールド』(共に河出書房新社)、『竹久夢二《デザイン》──モダンガールの宝箱』(講談社)、岩波文庫『竹久夢二詩画集』(岩波書店)など。
石川 桂子(いしかわ・けいこ)
1967年、東京都生まれ。竹久夢二美術館学芸員。編書に『大正ロマン手帖──ノスタルジック&モダンの世界』『竹久夢二♡かわいい手帖──大正ロマンの乙女ワールド』(共に河出書房新社)、『竹久夢二《デザイン》──モダンガールの宝箱』(講談社)、岩波文庫『竹久夢二詩画集』(岩波書店)など。






















