徒競走 愛されたことあんですか

むかし、やぎもとさんって愛されたことがあるんですか、ときかれたことがある。

そのときわたしはすこしくらくらしながら、これは徒競走なんだ、とおもった。

いつかそのしつもんがきえるまで、そういうのをきかれないようなふうあいをもったにんげんになれるまで、ひとりとろとろ走っていく徒競走なんだ、と。

ゴールには愛と呼ばれるものがまっていて、わたしがもろてをあげてよろよろのからだでテープを切ったしゅんかん、やぎもとさんって愛されたことあんですか、のしつもんが消える。そうしてわたしはひとりの答えになる。

そういう徒競走。

他にもまだ、ぱっとしなかった、とか、毎日いったいなにしてるんですか、とか、どういうつもりでやってるんですか、とか、あれあれどこいっちゃったんですか、とか、そういう徒競走もあるんだけれど。

それも徒競走。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター