「服着なよ」霧になんども濡れた眼で
きゅうに眼のしたに発疹ができて、太宰治の「皮膚と心」を思い出す。洗面所に行って、治んのかなあ、とおもう。温泉でも、治んのかなあ、とみている。
「皮膚と心」では、妻がさいごにおおきな注射を打たれて、うれしそうに陽に手をかざしている。「うれしいか?」と夫がきく。妻はすこし恥ずかしそうにする。
からだは、いったい、誰のものなんだろう。
おおきなお風呂に入っていると、いろんなからだが行ったり来たりする。いろんなことをしてきたからだが、いろんな陽にさらされたからだが、いろんなことばを受けたからだが、水に濡れ、ゆきかっている。
治るのかなあ、とおもう。濡れた手でいじくっている。裸のわたしのまうしろを、はだかのからだが通りすぎていく。いろんなからだのなかで、わたしのはだかにふれている。