こんなほっぺたふくらませる未来に辿り着く

ポール・ニザンのことばで、「ぼくは二十歳だった。それがひとの一生でいちばんうつくしい年齢だなどとだれにも言わせない」ということばがあって、これを教えてくれたのは中島らもだったとおもう。

「一歩足を踏みはずせば、ぜんぶが若者をだめにしてしまう」とこのことばは続いていく。

二十歳になった日、なにをしていたんだろう。郵便局で、思い切って買った詩人の津村信夫の全集の振込をしていたようにおもう。いつもと変わりなく、でもすこしだけまわりの目を気にしつつ、なにも変わらなかったじぶんに失望しつつ、これからくる無駄に長い未来になにも期待せず。でも、なんとなく、わたしから何人かのわたしが去っていった。

本屋さんでほっぺたをふくらませながら買い物しているようなのどかな未来が、中島らもを読み続けていた二十歳の日々がどこかにたどりつく不思議な未来がくるんだろうか。

郵便局の窓の外にはゆうじんがいて、わたしを待っている。わたしはきょう二十歳になるのに、それを教えないでいる。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター