おばけはいつも垂直に立っている
ムンク展で「吸血鬼」を見た。日比谷のルドン展でもこのムンクの「吸血鬼」を見たことがあった。
噛む、というよりは、抱きついている。しがみつき、くっついている。吸う、というよりは、首もとにくちづけをしている。
男の髪は律儀に七三に分けられ、うつむいている。男の顔も女の顔もみえない。女が吸血鬼だ。
でも。
ふつうの女にもみえる。
日比谷公園でこんな光景をみたら、ただ、ちゃんといちゃいちゃしているとしかおもわないだろう。血はかんけいない。ムンクにとって、血はかんけいなかったのかもしれない。垂れるような線や色がだいじだったのかも。
もう男はしんでいるのかもしれない。女は吸血鬼だからしんでいる。
ふたりのおばけはかがんで、うつむいている。