おばけはいつも垂直に立っている

ムンク展で「吸血鬼」を見た。日比谷のルドン展でもこのムンクの「吸血鬼」を見たことがあった。

噛む、というよりは、抱きついている。しがみつき、くっついている。吸う、というよりは、首もとにくちづけをしている。

男の髪は律儀に七三に分けられ、うつむいている。男の顔も女の顔もみえない。女が吸血鬼だ。

でも。

ふつうの女にもみえる。

日比谷公園でこんな光景をみたら、ただ、ちゃんといちゃいちゃしているとしかおもわないだろう。血はかんけいない。ムンクにとって、血はかんけいなかったのかもしれない。垂れるような線や色がだいじだったのかも。

もう男はしんでいるのかもしれない。女は吸血鬼だからしんでいる。

ふたりのおばけはかがんで、うつむいている。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター