すなおにいってよければたしかにむだにいきてます

こないだ正直にいおうとおもって、すなおにいってよければたしかにむだにいきてます、と話した。むだあしばっかりです、と。

家に帰るときもアバウトに帰ってます、と。東のほうこうに行けば帰れるよなとか、西とか北とか、それくらいのアバウトさで。北風と太陽の話にでてくる旅人くらいアバウトな方角のつかみかたで帰ってます、と。

あれ方角の話だったっけ? あれはなんか服を脱ぎちらかす話でしょ、というので、今はそれはいいんですよ、という。

あなたのアバウトなところがだいきらいといってたしかに去ったひともいました。それもここで素直に打ち明けておきます。たしかにわたしはむだにちょこちょこしてきました。

でもね、そうやってアバウトにね、知らない小路をね、わけいっていったらね、あるとき、猫の王国みたいな通りにさまよいこんだことがあって。これは俺の『耳をすませば』なんだろうかとふっとおもったりしたんです。あるいは萩原朔太郎の「猫町」とかね。

ともかく猫にリードしてもらう話ね? うん、そうそう。猫任せだ。まあ、うん、そう。

それでね、その通りを歩いてたらね、猫がね、俺にひっしになにか話しかけてくるのね、そんなことは人間界でもなかったです、しょうじき、ひとから話しかけられることなんて、でもその猫は俺になんかせつじつに、猫ができる範囲の切実さでね、俺に話しかけてて、でも俺は人間界ではとてもレベルの低いことしってるのかなあとおもったけどね、それでもなんかひっしに、おいこっちきなよ、ってかんじで話しかけてきてて、それはなんかさすがにわかって、でね、俺もね、ふだんそんなことしないんだけど、おもむろに猫にちかづいていったのね、そしたらね、こっちくんのか、ってかんじで猫がすごくびびったのね、で、猫がびびったとき、そういう反応? って俺もすごくびびったのね、でね、猫と俺の両肩がどうじにびくっ! となってね、それで、おたがいがおたがいにしずかにびびってね、とってもしずかな通りで。

わたしはいったいわたしがなんのはなしをしていたのかわすれてしまう。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター