ベレー帽かぶるつららを待っている

すごい重いマフラーがあって、このマフラーなんなの、ときいたら、猟師がつけるマフラーなの、と言っていた。中世の騎士がインナーとして着る鎖かたびらのような重く編まれたマフラーだった。

ベレー帽をかぶってきたひとと上野公園を歩いた。どうしてきゅうにベレー帽をかぶることにしたのかなあとはなかなかきけなかった。ある日ひとはベレー帽をかぶる。わたしはまだかぶったことがないけれど。かわりに、上野公園ってとってもあるくんですね、むかし上野公園をやっぱりひとと歩いて次の日に腰をぬかしたことがあります、ほんとうに立てなくなっていたんです、とわたしはそういう話をした。そのひとはベレー帽をかぶったままうなずいて聞いている。そのあいだも歩きつづけた。そのあとそのひととラーメン屋を二軒もはしごした。ひとつは濃いラーメンで、もうひとつは薄いラーメンだった。お互い、さよならを言って、駅のまえでわかれた。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター