大蔵流〈茂山千五郎家〉に生を受け、
京都1000年の魑 魅ちみ 魍魎 もうりょうをわらいで調伏する男、ここにあり。
この物語は、ややこしい京都の町で、いけずな京都人を能舞台におびきよせ、
一発の屁で調伏してしまう、不可思議な魅力をもつ茂山家の狂言の話である。
道行案内は、ぺぺこと茂山逸平と、修行中の慶和よしかずにて候。

~「居杭いぐい」~

出演:陰陽師:茂山七五三しめ、居杭:茂山慶和よしかず、何某:茂山宗彦もとひこ
2017年 12月23日 金剛能楽堂
居杭・解説
居杭という名の子どもがいた。お世話になっている何某なにがしの家で何かというと頭を撫で叩かれる。何某は居杭が可愛くてそうするのだと言うが、居杭にしてみれば迷惑千万。居杭は京都の清水寺の観音にお祈りして、姿を消すことができる頭巾を手に入れる。何某は算置さんおきに頼んで陰陽師おんみょうじの算木を使った占いで姿を消した居杭を探し出そうとするが、姿を消した居杭は、何某と算置にいたずらをする。

今回は、逸平さんの息子の慶和君にインタビュー!
慶和君は2009年生まれ、インタビュー収録時の2018年12月22日は9歳の子ども狂言師さんです。

©Halca Uesugi

── 狂言の『居杭』はどんな作品ですか?
同い年のお友達にもわかるように教えてください。

お金持ちのお侍のおじさんがいて、そのおじさんに気に入られている居杭っていう6、7歳くらいの男の子が登場人物です。
おじさんがかわいがって頭を叩いてくるのが、居杭は痛くて嫌なんです。
それで、観音様に神頼みするんですね。
そうしたら、かぶると姿を消せる頭巾を出してくれて。
── 京都の清水のお寺さんにお願いしたんですよね。
そうしたら、透明人間になれる頭巾を出してくれたんですね。

そうそう。
おじさんは、陰陽師を雇って見えなくなった居杭を探そうとするんだけれど、居杭は居場所をかえて、見つからないようにするんです。
居杭は、おじさんと陰陽師を喧嘩させてみようかなといういたずら心がわいて、自分は透明人間のまま、ふたりの耳をひっぱったり、肩を扇子で叩いてみたり。
ふたりは喧嘩をはじめて、ヒートアップしてしまう。
そろそろいいかなと、居杭は頭巾を脱いで姿を現して、「ゆるさせられ、ゆるさせられ」と逃げていって終わり(笑)
── やるまいぞ、やるまいぞ、って追いかけられて終わるんですね。
そうそう。

©Halca Uesugi

── 居杭は、慶和君のお気に入りの作品ですね。
初めて演じたのはいつですか?

居杭は、去年の12月23日、おじいちゃん(茂山七五三さん)の古稀祝賀狂言会で初めて演じました。
── おじいちゃんが陰陽師の算置で、茂山宗彦さんがおじさんの何某でしたね。
好きな場面はどこですか?

いたずらするところです(笑)。
透明になれる頭巾が本当にあったらいいな、とも思います。
この頭巾は、ドラえもんの秘密道具に例えたら石ころぼうしみたいなもの。
そのぼうしをかぶると道端のただの石に見えるようになれる。
── この頭巾は、子どもたちの夢でもありますよね。本当にあったらどうしますか?
宿題が大変なときに、頭巾をかぶって消えます!
国語、理科、社会はいいんだけれど、算数がね。冬休みの宿題、無理!
この頭巾が本当にあったら、隠れちゃいます(笑)

©Halca Uesugi

── 『居杭』を演じるときに、大変だったことはありますか?
前半、居杭がおじさんの家に行ってぼうしを試してみようとしているところが、一番台詞が多くて大変でした。
── 慶和君が一番好きな作品は何ですか?
『船弁慶』です。船弁慶の義経がかっこいい。
もし、日本で一番尊敬する人のランキング番組に出られたら、絶対義経と言います。
義経はものおじしない。
ピンチに追い込まれてもそこから逃げようとせず、あきらめなくて。そこが好きです。
── ふだん心に義経を抱いているんですね…。
小さい時、義経のかぶとよろいをつくって着てみたり、お習字の手習いに「源義経」と書いて、源慶和と名前を書いてましたね。
3年生のとき、義経の剣のおもちゃと軍配も買ってもらいました!
今もずっと義経が好きです。

©Ippei Shigeyama

── 学校と稽古の両立はどうしているのですか?
学校の宿題が毎日たくさん出ます。
時間があいているときに宿題をバリバリやります。稽古は毎日です。
勉強と稽古の比率は、(1:5くらいを手で示して)このくらいです。
── 学校でも色々な活躍をしているお友達はいるとは思いますが、慶和君は子方の狂言師であることを、自分ではどう思っているのですか?
自覚しています(笑)。学校で、狂言の台詞を言ってみることもあります。
これからも、狂言師として真っ直ぐいきます。ピンといくしかないと思っています。
何より稽古です。
── かっこいいですね。
狂言師の先輩としてのお父さんの逸平さん、おじいさんの七五三さんのすごいところ、こんなふうになりたいところ、好きなところは?

じいじの好きなところはおもちゃを買ってくれるところです!

©Ippei Shigeyama

── 笑。おじいちゃんの役者として好きなところは?
うーん、何ていえばいいのかなあ(笑)
おじいちゃん、稽古のときは、やさしいです。
── お父さんの好きなところは?
大黒ラーメン(京都・伏見)に連れて行ってくれるところです!
ラーメンといったら、大黒ラーメンの右に出るものはないです。
── お父さんの方が、おじいちゃんより怖いと聞いているんですが。
怒ると悪魔のように怖いです。デビルになります。
同級生が、もしこのデビルで怒られたら、ビビると思います。
稽古でとても怒られます。

©Halca Uesugi

── 最近の子どもは怒られることが少ないので、いい経験しているようですね(笑)

©Halca Uesugi

●茂山 逸平(しげやま・いっぺい) 大蔵流狂言師(クラブsoja 狂言茂山千五郎家)。
1979年、京都府生まれ。曾祖父故三世茂山千作、祖父四世茂山千作、父二世茂山七五三に師事。甥と姪が生まれたときに、パパ、ママのほか、逸平さんをペペと呼ばせたので、茂山家では以降ぺぺと呼ばれるようになった。
●茂山 慶和(しげやま・よしかず) 逸平の息子。2009年生まれ。4歳のときに「以呂波」で初舞台。小学校1年生から謡曲を習い、義経の生まれ変わりだというほどに、義経好き。稽古のあとの楽しみは、大黒ラーメン。
狂言公演スケジュール
http://kyotokyogen.com/schedule/
『茂山逸平 風姿和伝 ぺぺの狂言はじめの一歩 』(春陽堂書店)中村 純・著
狂言こそ、同時代のエンターティメント!
大蔵流<茂山千五郎家>に生を受け、京都の魑魅魍魎を笑いで調伏する狂言師・茂山逸平が、「日本で一番古い、笑いのお芝居」を現代で楽しむための、ルールを解説。
当代狂言師たちが語る「狂言のこれから」と、逸平・慶和親子の関係性から伝統芸能の継承に触れる。
構成・文/中村 純(なかむら・じゅん)
詩人、ライター、編集者。今年は、『風姿和伝』をしっかり編集します!
写真/上杉 遥(うえすぎ・はるか)
能楽写真家。白拍子研究所で幻の芸能白拍子の魅力を伝えるべく日々修行中。