ネット通販の普及と活字離れの影響で、昔ながらの街の本屋さんが次々と姿を消しています。本を取り巻く環境が大きく変わりつつある今、注目されているのが新たな流れ“サードウェーブ”ともいえる「独立系書店」です。独自の視点や感性で、個性ある選書をする“新たな街の本屋さん”は、何を目指し、どのような店づくりをしているのでしょうか。
前回に引き続き、今回も京都の書店をご紹介します。


【連載13】
「本屋」あらため、「やけに本が多いお土産屋」に
ホホホ座 浄土寺店(京都・浄土寺)山下賢二さん

全国に「ホホホ座」があるわけ
東山慈照寺(銀閣寺)や哲学の道にもほど近い住宅地にある「ホホホ座 浄土寺店」は、一階は新刊書と雑貨、二階は古書と雑貨で構成されています。一階の店主・山下賢二さんは、クルマが外壁に突っ込んだ個性的な外観と独特の品揃えが人気だった「ガケ書房」(北白川)の元店主。移転・改名する形で2015年4月にこの場所に移ってきました。それにしても「ホホホ座」とは、何とも微笑ましい力の抜ける名前。この不思議な名前を持つ店が全国各地にもあるそうです。ホホホ座とは、どのようなところなのでしょうか。
── まずは、ホホホ座が生まれたいきさつから教えてください。

そもそも、ホホホ座という名前は、あるイベントを企画しているときに考えたユニット名です。結局そのイベントは流れたのですが、『わたしがカフェをはじめた日。』という本を、古書と文化雑貨店「コトバヨネット」の松本伸哉さん(現・ホホホ座二階店主)、古本と中古レコード店「100000t(じゅうまんとん)アローントコ」の加地猛さん、デザイナーの早川宏美さんと僕の4人で、2014年に自費出版したときに著者名として使うようになりました。だから、ホホホ座の母体は、4人組の編集グループということになります。本を出したあとに店を移転することになり、その際、松本さんの店(二階)と僕の店(一階)、どちらもホホホ座という店名に変えた、という流れです。
── ホホホ座は浄土寺店だけでなく、全国各地にあるのですね。
いま、全国で9店舗あります。尾道(広島)はお菓子、今治(愛媛)はライヴスペース、金沢(石川)はギャラリーカフェ……というように業種はさまざまで経営もそれぞれ別。ホホホ座という名前を使いたいという人を僕と松本さんが面接して、OKであれば名乗ってよし、というルールでやっています。採用基準は僕らより真面目かどうか(笑)。全国のホホホ座が毎日何かしらSNSで発信すると、まるで大きなグループとしてやっているように見えるでしょ。それも狙いのひとつです。今年の1月には、すぐ近くに1日1組限定の宿「ホホホ座ねどこ」もオープンしました。こじんまりとした宿ですが、窓から大文字が見えるし、哲学の道も近い。ゆっくり滞在したい人におすすめです。
── ガケ書房のときと比べて、品揃えはどのように変わりましたか?
以前の店から白川通りをちょっと下っただけですが、今出川通りを境にぱったり学生は来なくなりました。いまは近所に住む若いお母さんや年配のお客さんがほとんどです。店に並べる本は来てくれるお客さんに合わせるので、絵本や健康に関する本が増えましたね。それと、移転してからこれまで以上に本を特別視しないよう意識しています。ワンクリックで買い物ができる時代に、わざわざ足を運んで実店舗で買う品物は、本であれ何であれ「お土産」なのではないかと考えるようになったからです。

本屋は勝者のためではなく、敗者のためのもの
── 本もお土産のひとつですか。

そうです。だからここは本屋ではなく「本が多いお土産屋」と言うようになりました。実店舗で買い物をすると、道中や店内の雰囲気、その日の天気、気分も含めて、買ったものには思い出がついてきますよね。最近はじっくり時間をかけて読む本を敬遠する傾向がありますが、本当は小説や哲学など、すぐに答えが出ないもののほうが何回も読めて面白い。それに、スマホは電池が切れると使いものになりませんが、本はいつでもどこでも自分の世界に入れます。本はそれだけで楽しめるハードであり、ソフトでもあるのです。本も娯楽のひとつであることを少しでも多くの人に知ってもらうために、あえて「お土産屋」だと言っています。
── いま、街の本屋に求められているのは、どのようなことだと思いますか?
不安や悩みを抱えている人が救いを求めて立ち寄る場所、それが本屋だと思います。極端に言えば、本屋は勝者ではなく、敗者のためのものなのではないでしょうか。本屋はさまざまな思想を、ひとところにまとめて並べているようなものだから、困ったときやヒントがほしいときにぜひ利用してほしいと思います。本屋を誰もが無料で入れる公園だとすれば、その空間を維持するための管理費として本を買ってもらう。僕らは管理人といったところです。品揃えが限られている僕らのような店は、目的のものを手に入れる「確認」の買い物はできませんが、思いもよらない「発見」を楽しんでもらえたらうれしいです。

人間のルーズさやエラーを面白がる
── 選書や棚づくりで気をつけていることは何でしょう。
買いたい本がもう決まっているのであれば、ネットで買うほうが断然便利です。実店舗の良さは、人間のルーズさやダメなところから生まれる偶然の出合い。たとえば、あるおじさんが哲学の本を買おうと手に取ったあとに、店内をうろうろして料理のコーナーに置いて帰ったとします。そこにお弁当に関する本を探しに来た若いお母さんがやって来て、ふと見上げたときにその本が目に入る。哲学書が料理本コーナーにあるなんて、コンピューターならエラーですが、そういう面白さが実店舗では起こりますから、僕が意図的に違うジャンルの本を差し込むこともあります。
── 本屋を続けていくコツはありますか?

本屋は始めるよりも続けていくほうが圧倒的に難しい。長くやっていると資金繰りなど悩ましいことがいろいろありますから。コツというわけではないのですが、僕の場合、モチベーションを保つための特効薬は、何と言っても現場に立つことです。朝、モヤモヤした気持ちを抱えたまま店に向かっても、店に着いて現場に立つと、パチンとスイッチが入って気持ちが切り替わる。なぜかというと、結局モヤモヤしていることって、現場に行かないと何も解決しないですから。もし、現場に立つことがなくなったら、僕はおそらく続けていけないでしょうね。
幼稚園の入園式から小学校の卒業式まで、家を一歩出たらひと言も話さない「しゃべらないキャラ」を突き通した山下さんは、近所の書店に入り浸るほど本が好きな少年でした。それにしても、まったくしゃべらないのに先生や友だちと支障なくやりとりができて、いじめられもしないなんて、逆にとんでもなく高いコミュニケーション能力の持ち主だったのではないでしょうか。「自分は受け身」だと言う山下さんですが、「依頼が来たら、ただでは返さない」と思っているあたり、ただの受け身でないことがよくわかります。何かを求めて来る人を温かく迎えるホホホ座の輪はこれからも広がっていきます。

ホホホ座 浄土寺店 山下さんのおすすめ本
『やましたくんはしゃべらない』山下賢二作、中田いくみ絵(岩崎書店)
あることがきっかけで幼稚園と小学校の9年間、公の場では一切しゃべらなくなった僕の実体験をもとに絵本を書きました。「こんな子きらいかな?」シリーズのひとつで、マルかバツかで分けたがる時代に、三角の子がいてもいいんじゃない?というメッセージが込められています。ホホホ座 浄土寺店で買うと、当時のことを思い出し小学生になったつもりで書いた作文の特典付き。
『放哉文庫 尾崎放哉 随筆・書簡』尾崎放哉(春陽堂書店)
酒癖や病のせいで妻と別居して寺男となった尾崎放哉の随筆と書簡をまとめた一冊。放哉は京都の鹿ケ谷にいたので、もし同時代に生きていればこの店に来た可能性も。文句ばかり言う困った人だったみたいなので、SNSでも炎上しまくりでしょうね(笑)。はみ出し者の放哉も、句を残したから後世に伝わる。いまの時代を生きづらく思っている人も作品を残せば、のちに評価されることがあるかもしれません。

ホホホ座 浄土寺店
住所: 606-8412 京都市左京区浄土寺馬場町71
ハイネストビル1階(新刊書・雑貨)
TEL 075-741-6501
営業時間 11:00~20:00(無休)
※2階(古書・雑貨)
TEL 075-771-9833
営業時間 11:30~19:00(不定休)
http://hohohoza.com


プロフィール
山下賢二(やました・けんじ)
1972年京都府生まれ。21歳の頃、友達と写真雑誌『ハイキーン』を創刊。その後、出版社の雑誌編集部勤務、古本屋店長、新刊書店勤務などを経て、2004年にガケ書房をオープン。2015年4月、ガケ書房を移転・改名しホホホ座をオープン。著書に『わたしがカフェをはじめた日。』(小学館)、『ガケ書房の頃』(夏葉社)など。


写真 / 千羽聡史
取材・文 / 山本千尋

この記事を書いた人
春陽堂書店編集部
「もっと知的に もっと自由に」をコンセプトに、
春陽堂書店ならではの視点で情報を発信してまいります。