ひとりだけパン屋の方を向いている

新しいパン屋ができたんだけれどひとりではなんだかいけないからついてきてくれない、と言われる。

ついていくと新しいパン屋で、店員のひとと目が合うとほほえまれ、どうぞいろんなパンをごらんくださいと目をパンのほうに向けられる。わたしのほうはみなくていいから、と。

いろんなパンがあるんですね、ともくもくわく蒸気をみながら、みてあるいた。バナナがいっぽんまるごと入った青海苔のパンがあるという。それよさそう、とわたしは言った。かぶと青菜のパンもあるよ。カヌレも。ぜんぶよさそう、とわたしは言った。

帰りにおもいっきりパンをくちにつめこみながら歩いていたら、おじいさんからにらまれる。にらまれたようなきがしただけかもしれない。わたしは戦争に行ったことがなく、なかのよいひとはまだいない。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター