「茂山千五郎家HANAGATA五人衆が語る、狂言のこれから」の巻

大蔵流〈茂山千五郎家〉に生を受け、
京都1000年の魑 魅ちみ 魍魎 もうりょうをわらいで調伏する男、ここにあり。
この物語は、ややこしい京都の町で、いけずな京都人を能舞台におびきよせ、
一発の屁で調伏してしまう、不可思議な魅力をもつ茂山家の狂言の話である。
道行案内は、ぺぺこと茂山逸平と、修行中の慶和よしかずにて候。

(左から)茂山逸平・茂山茂・茂山千五郎・茂山宗彦・茂山千之丞

京都は、神社仏閣の年中行事が日常的にあちらこちらであり、京町衆などの市民、観光客も、行事を通じて季節の移り変わりを実感できる街です。
京都の能楽師狂言方茂山千五郎家は、岡崎の平安神宮、祇園の八坂神社、北野天満宮、千本釈迦堂へ狂言を奉納してきました。
座談会の日、節分会の奉納狂言を終えて、狂言師としても花の盛りのHANAGATA五人衆が茂山千五郎家の稽古場に集まってくださいました。

2019年2月3日 鬼追いの儀 於:千本釈迦堂
── 北野天満宮へは千五郎さんと茂さんが、千本釈迦堂には七五三しめさんと逸平さんと宗彦さんが節分会の鬼追いの儀を務められたのですね。
茂山 千五郎(以下、千五郎):百社奉納といって、茂山千五郎家では京都の神社に狂言を奉納してきました。
今日は子どもたちも参加しておりましたが、私も高校生ぐらいで初めて奉納狂言に参りました。最近の茂山千五郎家の奉納狂言で、一番古くからさせていただいているのが北野天満宮です。昭和24、25年ごろからでしょうか。
── 千之丞さんは昨年襲名したばかりですね。おめでとうございます。
今年の元日の平安神宮では、千之丞さんの翁奉納の『三番三』、1月3日の八坂神社での翁奉納は、あきらさんの『三番三』、千之丞さんの『千歳』の親子共演が奉納されましたね。

茂山 千之丞(以下、千之丞):平安神宮の奉納狂言は京都能楽会の仕事なんです。
茂山 茂(以下、茂):6月にたきぎ能で平安神宮を使わせていただきますので、1月にお礼で奉納狂言をさせていただいています。
── 逸平さんは、今日は千本釈迦堂さんでしたね。
茂山 逸平(以下、逸平):千本釈迦堂の奉納狂言は平成元年からです。
僕たちの祖父(千作)の妹の旦那さんのお弟子さんが鬼の面を作り、千本釈迦堂に奉納しました。そのご縁で、僕の父(七五三)が平成元年に銀行を辞めた年から奉納を始めました。
千作千五郎家は北野天満宮、あきらさん一家は平安神宮、僕と父は千本釈迦堂という分担になっています。いろいろ様変わりしながら続いてきています。
以前はたいまつを持って走る東映の役者さんがいたこともありました。

©Halca Uesugi

── 神社仏閣とのつながりを大事にされているのですね。

千五郎:奉納狂言は多いですね。やっぱり京都で活動する狂言師だからでしょう。
茂:奈良は春日神社に能楽を中心に奉納されているようです。
逸平:普段狂言を見にきてくださる方が、奉納狂言も見にきてくださいます。
千五郎:奉納狂言は、近所の方や寺社の信者さんも多く見にきてくださいますね。
── 京都では、このように、その街の人々のくらしの中に、能や狂言の芸能者が現役で活躍しているのですね。

©Halca Uesugi


HANAGATA五人衆
── 改めまして、今日は、HANAGATA五人衆の皆さんに、ご自身のこれまでと今、これからについて、お話いただきます。

千五郎:茂山千五郎でございます。
今年は、私の祖父にあたります四世千作が亡くなりまして春に7回忌、秋には千作の生誕100周年、千五郎当主(笑)、頑張っていきたいと思います。
逸平:茂山逸平です。今年は40歳になります。30歳から始めた狂言季期を復活させたいと思っています。『たぬきの腹鼓はらつづみ』という大曲に挑戦します。
茂:茂山茂です。今年は舞台生活40周年を迎えます。
── 茂さんは、狂言を何歳から始められたんですか?
茂:4歳からです。今年44歳なので40周年。今は自分のことより子どもの稽古で精一杯での日々です。息子が2週間後に大きな役をしますので、それが終わったら40周年に向けて少し自分のことも考えていこうと思っています。
茂山 宗彦(以下、宗彦):茂山逸平の兄で、茂と千五郎のいとこの茂山宗彦です。今日ちょっと寝坊をして、みなさんに迷惑をかけないように一年を過ごしたいと思っています。どうもありがとうございます。
千之丞:茂山童司です!
一同:違うやろ!(爆笑)
千之丞:茂山千之丞です。昨年末に襲名をしまして、1月にいろいろありまして、2月に東京公演があって、もうそろそろ襲名も飽きてきました(笑)。
6月に神奈川芸術劇場で『ゴドーを待ちながら』というサミュエル・ベケットの作品に出させていただくことになっています。これはちょっと楽しみにしています。
父(あきら)が、「NOHO(能法)劇団」を主宰していて、ベケット・イエイツの不条理演劇をしています。父が「適齢期になったら出演したい」と言っていた作品ですが、僕が出させてもらうことになりました。千之丞になった年にオファーがきたので縁があるのかもしれません。
── 襲名は狂言方にとってどんな意味付けがあるのですか?

千之丞:ひとそれぞれですよね。
千五郎は当主だから、千五郎を襲名するときは「家のトップを譲ります」ということです。
僕の場合は、祖父の千之丞が戦後の闇市で警察に捕まったじとき、舞台での名前と悪さをしたときに新聞に掲載される名前が同じだとまずいので急遽変えた名前が「千之丞」だから(笑)。
逸平:悪いことまだするつもりやったん(笑)?
千之丞:闇屋はやめたけれど、その後も違法な取引をいっぱいしてたと思うよ(笑)。
茂:こんにゃく芋買ったりね。
千之丞:戦後は食べられなかったからね。祖父の千之丞が、そういう「悪いこと」で稼いだおかげで、うちに狐の面があったりします。
── 戦後すぐのお話ですよね。

千之丞:祖父は1945年に警察に捕まっています。
── 戦後、子どもたちに狂言を見てもらおうということで全国を回っていらしたのですか?
一同:学校狂言が盛んだったのが、昭和35年ごろだと思います。
茂:そのころはそもそも狂言を見てもらう機会がなかったので、自分たちで何でもいいから狂言を見てもらえる場をつくらなくてはと、「来て」と言われたらどこに行ってでも狂言をする繰り返しだったのだと思います。
千五郎:プロモーターというか、仕事をもってきてくれる人がいて、いろいろな学校に声をかけてくれたんですね。
千之丞:声をかけて、持ち逃げもしてね(笑)。
茂:何人かプロモーターがいたんですが、四国で巡業して帰りの船に来なかった人がいました。四国巡業中の公演、学校に集金したお金を全部持って、そのまま逃げられたようです。
逸平:うちの親父は22歳で大学を卒業して、京都の中央信用金庫に就職して18年間、40歳までサラリーマンと狂言を兼業しました。
── その時代と比べると、今の方が狂言を見る方も増えたのですか?
逸平:少なくとも、狂言師がほかの仕事についていなくとも、何とか食えているようになったので、そういうことになると思います。
うちの祖父(千作)が人間国宝になったのが平成元年。それくらいからですよね。
千作、千之丞がいて、その3、4年後に爆発的に狂言が拡がるようになりました。
狂言師として油が乗り切っているうまい祖父たちの世代と、若手の兄ちゃんたちがいたわけですから。
茂:お客さんとしては、若いお兄ちゃんを入り口に狂言に来たら、「めっちゃうまいじいちゃんいるわ」っていう(笑)。
うちの祖父たちは偉かったですよね。僕たち若い兄ちゃんが連れてきたお客さんを全部もっていく。全然違う、やっぱりおじいちゃんすごいわ、と思われるだけの芸をしていました。
其の八「茂山千五郎家HANAGATA五人衆が語る、狂言のこれから」の巻【後編】に続く
(対談者プロフィール)
●十四世 茂山 千五郎(しげやま・せんごろう)大蔵流狂言師 五世千作の長男 茂山千五郎家当主
1972年生まれ。「茂山狂言会」花形狂言会改め「HANAGATA」、茂との兄弟会「傅之会」、落語家桂よね吉との二人会「笑えない会」を主催。2016年、十四世茂山千五郎を襲名。
●茂山宗彦(しげやま・もとひこ)大蔵流狂言師 二世七五三の長男で逸平の兄
1975年生まれ。1994年に従兄弟の茂山 茂・弟の茂山 逸平らと共に「花形狂言少年隊」を結成。弟逸平と共に、新作二人芝居<宗彦、逸平のThat’s Entertainment「おそれいります、シェイクスピアさん」> に挑戦するなど幅広く活躍する。
●茂山茂(しげやま・しげる)大蔵流狂言師 五世千作の次男、千五郎の弟
1975年生まれ。1994年に従兄弟の茂山 宗彦・弟の茂山 逸平らと共に「花形狂言少年隊」を結成。2015年より兄の千五郎と共に「傅之会」を発足。次世代の育成にも力を注ぐ。
●茂山逸平(しげやま・いっぺい) 大蔵流狂言師 二世七五三の次男で宗彦の弟
1979年京都生まれ。曾祖父故三世茂山千作、祖父四世茂山千作、父二世茂山七五三に師事。
甥と姪が生まれたときに、パパ、ママのほか、逸平さんをペペと呼んだので、茂山家では以降ぺぺと呼ばれるようになった。
●茂山千之丞(しげやま・せんのじょう)大蔵流狂言師 あきらの長男
1983年生まれ。1995年に、茂、宗彦、逸平が結成した「花形狂言少年隊」に入隊。2013年から作・演出を手がける新作“純狂言”集「マリコウジ」、コント公演「ヒャクマンベン」を始動。バイリンガル狂言師でもある。2018年、三世茂山千之丞を襲名。
狂言公演スケジュール
http://kyotokyogen.com/schedule/
『茂山逸平 風姿和伝 ぺぺの狂言はじめの一歩 』(春陽堂書店)中村 純・著
狂言こそ、同時代のエンターティメント!
大蔵流<茂山千五郎家>に生を受け、京都の魑魅魍魎を笑いで調伏する狂言師・茂山逸平が、「日本で一番古い、笑いのお芝居」を現代で楽しむための、ルールを解説。
当代狂言師たちが語る「狂言のこれから」と、逸平・慶和親子の関係性から伝統芸能の継承に触れる。
構成・文/中村 純(なかむら・じゅん)
詩人、ライター、編集者。今年は、『風姿和伝』をしっかり編集します!
写真/上杉 遥(うえすぎ・はるか) 能楽写真家。
今様白拍子研究所で幻の芸能白拍子の魅力を伝えるべく日々修行中。