ネット通販の普及と活字離れの影響で、昔ながらの街の本屋さんが次々と姿を消しています。本を取り巻く環境が大きく変わりつつある今、注目されているのが新たな流れ“サードウェーブ”ともいえる「独立系書店」です。独自の視点や感性で、個性ある選書をする“新たな街の本屋さん”は、何を目指し、どのような店づくりをしているのでしょうか。京都の書店、第三弾は「日本映画発祥の地」京都ならではの、映画館のなかにあるお店をご紹介します。


【連載14】
本は売って終わりじゃなくて、そこからがはじまり
CAVA BOOKS(京都・出町柳)宮迫憲彦さん

昔ながらの商店街にオープンした映画館×本屋×カフェ「出町座」
2017年12月、映画館をメインにした複合施設「出町座」が京都・出町桝形商店街に産声を上げました。出町座の一階にある本屋さん、それが「CAVA BOOKS(サヴァ・ブックス)」です。かつて、若狭湾(福井県)から海のない京都に魚介類、主に鯖(さば)を運ぶために使われた「鯖街道」。出町柳は鯖街道の終着点、京都の入り口であることからCAVA BOOKSと名づけられました。プロデューサーの宮迫憲彦さんが考える、映画館にある本屋ならでは役割とは?
── 宮迫さんがこの店に携わることになったきっかけは何でしょうか。
「立誠シネマ」(2017年7月に終了したミニシアター)を運営していた「シマフィルム」が、移転先を出町柳に決めて、映画と書店とカフェを融合した施設「出町座」を計画していました。本屋とカフェはアウトソーシングすることになり、まわり回って僕にも声がかかってきたというわけです。CAVA BOOKSは、ライターのうめのたかしさん(元・ホホホ座浄土寺店スタッフ)、ディレクターの小野友資さん(YUY BOOKS)、デザイナーの尾花大輔さん、そして僕という4人の共同事業です。みんなそれぞれ本業があるので常駐はできませんが、ありがたいことに映画館のスタッフがいるので販売などに支障はありません。

── 声がかかったとき、正直どう思いましたか?
実はこの話を聞く前から、「次に何か新しいことをやるなら出町だな」と漠然と思っていました。京都大学や同志社大学などが近いこと、商店街の人が元気なこと、そしてこの近辺に本屋がなかったことが理由ですが、そう考えていたところに飛んできたのが出町座の話です。僕はフィルムアート社という映画の本を出している出版社に勤めているので、映画の現場に近いところにいられるというのは、本業にとってもとてもよいことだと思いました。この時代、街なかにシネコンではない新しい映画館ができるのはかなりめずらしいことで、そこで本屋を始められるなんて、またとない機会です。個人活動としてCAVA BOOKSに関わることを会社も認めてくれました。
── 出版社の社員でありながら、書店経営。理解のある会社ですね。

そうですね。我ながらかなり特殊な働き方だと思っているのですが、それを許容してくれている会社には本当に感謝しています。僕は関西の営業担当として、2014年から京都に常駐していますが、京都事務所というものは存在していないので、市内のコワーキングスペースを借りて普段は仕事をしています。そこで、海外文学専門の「Montag Bookselles(モンターグ・ブックセラーズ)」という小さな本屋を2016年からやっています。もちろん本屋の活動のせいで本業がおろそかになるということがあってはいけません。個人活動を許容してくれている以上、本業ではより一層パフォーマンスを上げ、目に見える成果を出し続けていく必要があります。平日はフィルムアート社の社員として通常の勤務をし、仕事終わりの時間や土日祝日を本屋の活動に充てています。おかげでフィルムアート社の本もとてもよく売れています。社員の特権で、本の先行発売をしたり、特典をつけたりできることが、映画ファンにも喜ばれるサービスにつながっているのでしょう。
本も映画も、フィクションの力をもっと信じたい
── 共同プロジェクトで運営してみて、よかったことは何でしょう。
自分ひとりのつながりや発想はたかが知れています。僕たちはそれぞれ別のジャンルを本業とする4人で組んでいますから、まず何かをやろうとしたときの広がり方が全然違いますね。自分にないスキルを持っている人と仕事をすることで、思いもよらなかった発想が生まれてくるのも魅力です。たとえば、出版業界ではない人から出てくる「なぜ本を値引きして売っちゃいけないの?」という素朴な疑問も、その発言が刺激になって、別の発想の種になることがありますから。これから新しいことをやろうとする人にアドバイスするなら、自分にないものを得意とする人と組むことをおすすめします。

── 映画館にある本屋さんですから、やはり、書棚は上映作品に合わせて変えるのでしょうか。

ええ。上映作品によってはテーマを絞るのが難しいこともありますが、映画を観たあとで手に取りたくなるような本をできるだけ揃えたいと思っています。僕が小説から本を好きになったということもあり、映画もどちらかというとフィクションが好きなんです。いまはすぐに役立つ情報が求められる時代で、本も実用的なものが売れますが、フィクションにしか表現できないこともあるし、フィクションだからこそ伝わることもある。本も映画も、すぐには役に立たないかもしれないけれど、あとからじわじわ効いてくるフィクションの力を信じていきたいと思っています。
映画館のなかにある本屋だからできること
── 出版社で働きながら、本屋の活動をすることで見えてきたことは?
実際に店に立つとお客さんの声を直接聞くことができますし、本を1冊買ってもらうことがどれほど大変なのかということが身に染みてわかります。出版社は東京に一極集中している業界だと思いますが、地方の現状を知り危機感を肌で感じることは、出版社に勤める人間にとって、とても重要なことだと思います。どういうお客さんが店に来て、どのような本を買っていくのか。本は売って終わりじゃなくて、そこからがはじまりだとも言えます。買われたあと、読まれたあとのことまで思いをはせること。出版社、本屋、読者という3つの視点を持つことは、出版社、本屋、どちらの仕事にも生きてきます。
── 映画館にある書店として、これからやりたいことは何でしょう。
出町座はカルチャーの拠点でもあるので、ここならではのオリジナルプロダクトをつくろうと考えています。その第一弾として、映画を観た後に半券を貼ったり、感想などを記録したりするための「映画鑑賞ノート」を2月に発売しました。ほかにも、出町座では著名な監督や評論家などに来てもらってトークイベントをやっているので、これまで開催された分も含めて、話された内容をまとめて出版することも考えています。実際にこの店に足を運んでもらうために映画館のなかにある本屋だからできること、体験も含めた新しい企画をこれからも考えていきたいです。

時代に翻弄される映画と本。お店を続けていくには、この先変化が求められることもあるでしょう。そんなとき、出版社と書店、本と映画、外から見た京都と内側から見た京都……。さまざまな視点を持つ宮迫さんの経験がきっと生かされるのだと思います。映画も本も、自宅にいながらにして楽しめるこの時代だからこそ、わざわざ足を運んで観る映画、買う本は特別なものになる。映画の余韻を楽しみつつ本に出合えるCAVA BOOKSでは、満ち足りたひとときが過ごせます。

CAVA BOOKS 宮迫さんのおすすめ本
『イラストでわかる映画の歴史 いちばんやさしい映画教室』アダム・オールサッチ・ボードマン=絵と文、細谷由依子=訳(フィルムアート社)
映画の歴史を「人」「テクノロジー(技術)」「テクニック(撮影技法)」の面からオールカラーのイラストで分かりやすく解説しています。映画について知ることで、映画や映画館を身近に感じてもらいたい。映画館にある本屋という立場からぜひ紹介したい一冊で、とくに若い人たちに読んでもらいたいです。
『放哉文庫 尾崎放哉 句集』尾崎放哉(春陽堂書店)
イギリスでは短いポエムの売り上げが過去最高になったと聞きます。そのうち日本でも短文が再評価されると思いますし、日本ではその代表的なものが俳句です。放哉の自由律俳句は、漫画家の和田ラヂヲがパロディ化したネタを出しているように、堅苦しくないので自由な解釈で楽しむことができます。

CAVA BOOKS
住所:602-0823 京都府京都市上京区三芳町133 出町座1F
TEL: 075-203-9862
営業時間:10:00台〜23:00台(出町座に準ずる)
定休日:年中無休(年末年始を除く)
http://cvbks.jp



プロフィール
宮迫憲彦(みやさこ・のりひこ)
1981年、岡山県生まれ。大手ナショナルチェーン書店に就職するが、度重なる転勤を経験し、子どもが生まれたことをきっかけに「どこで暮らすのか」を深く考えて退社を決意。現在は、京都に居住しフィルムアート社(出版社)の関西営業担当としての仕事をしつつ、2016年8月にコワーキングスペースのなかに海外文学をメインにした本屋Montag Booksellersを開店、2017年12月からはCAVA BOOKSプロデューサーとしても活動している。


写真 / 千羽聡史
取材・文 / 山本千尋

この記事を書いた人
春陽堂書店編集部
「もっと知的に もっと自由に」をコンセプトに、
春陽堂書店ならではの視点で情報を発信してまいります。