柳本々々さん(川柳作家・詩人)の 第57回現代詩手帖賞 (主催:思潮社)受賞を記念して、
昨年5月22日からイラストレーター・安福望さんと共に毎日公開されてきました連載をいくつか振り返っていただきました。

今日のもともと予報 -ことばの風吹く-

2019年3月25日
名探偵レモン・レモンがやって来る
「名探偵モンク」でこんなセリフがあった。
神はそのひとを罰したいときそのひとの願いを叶える、と。
どうして願いが叶うことが罰になるんだろ。
なにかに届いてしまうとき、手に入ってしまったとき、到達してしまったとき、ひとはうれしさやしあわせと同時にこんなことを思うかもしれない。えっこんなもんなの、と。そして、まだ先があるんだ、って。ここで終わりじゃなかった、って。
願いはかなえられてもまだ先がある。事件がおわってもまだ先がある。むこうから探偵たちがやってくる。

樹木希林さんが歌う『林檎殺人事件』の霧に浮かぶリンゴやさっそうと登場する探偵を思い浮かべて書いたものです。樹木希林さんの、必要以上にモノを持たないこと、モノをきちんと使い尽くすこと、モノの冥利をかんがえること、じぶんのからだもちゃんと使い尽くしてゆくこと、ということばをよく思い出します。(柳本々々)


2018年6月1日
渦を観察しながら渦のなかゆっくりと移動する好きと言われた過去思い出しつつ
好き、ってなんなんだろう。好き、といわれたとき、わたしの眼の動きや速さはどうなっていたんだろう。わたしはそのときどんなテレビ番組をみていただろう(もしテレビがついていたら、の話だが)。好き、といわれたときわたしは眼鏡をかけていたのかどうか。風は、どうだったか。
じぶんは詩を書くこともそうですがいつも混沌としていてきちんとしようとしても渦になってしまうところがあって、どうしていつもこんな渦のような生き方をしているんだろうとかんがえることがあります。そういう渦のようなにんげんが渦のなかでそれでも生きていくにはどうしたらいいかな、と。でもせっかく入った渦なのでこの渦のなかからもう少しがんばってみようと。渦となんとかなかよくしながら。(柳本々々)


2018年9月7日
新宿駅の花屋で待ち合わせる人を見ている
新宿駅にある花屋で待ち合わせながら、その花屋で待ち合わせるひとびとをずっと見ていた。みんな誰かを花と花のあいだで待っている。「きた」の顔や「こない」の顔や「くる」の顔をしながら。
去年のちょうど今くらいに現代俳句協会のイベントでパネリストとして助詞の話をしてほしいとの依頼をいただいて、そのときの待ち合わせとして新宿の花屋を指定されました。そこで協会のひとを待ちながら、たくさんの待っているひとたちの待っている顔を見ていました。花がたくさん咲いているところ、売られていくところで、みんな会いたいひとを待っている。わたしはでもこれから助詞の話をするために待っている。うまくいくかどうかもわからない。しっぱいのためにここで待っているかもしれない。花はたくさん咲いていて、会いたいひとに会えたひとの顔がぱっと輝いてはその花屋から飛び立っていく。そういう日でした。(柳本々々)

【受賞を経て、これから】

現代詩と現代川柳はとてもよく似ているところがあると思っていて、ことばの渦の大小なのではないかと思うときもあります。詩は大きな渦で、川柳は小さな渦です。そういうたくさんの渦がある場所で、この世界からどういう渦を見つけられるだろう、新しい渦や古い渦、たのしい渦やかなしい渦、すごい渦が生きているあいだにあとどれくらい見つけられるだろう。そういうことを考えながら書いていきたいと思っています。(柳本々々)
この夏、1年に及ぶ連載の作品集が出ます!どうぞお楽しみに!!
                          (春陽堂書店編集部)

  yagimotoyasufuku
  柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
  安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター