いきてきたことをちいさく話す会

ねえ、あのね、幽霊は過去だから、幽霊の真逆は今でしょう? と言っていた女のひとがいた。

えっそうなの? でもいつもゆうれいは今あらわれるんだよ? ちがう? 幽霊がたってて、ぼくはたまたま見る。キッチンとか、屋上とか、公園のかげで。今しか見ることはできないよ、とその女のひとにいったら、へー、ずいぶん活発にしゃべるようになったね、と言われた。いろんなことが終わったんだね。

こないだわたしは深夜に、たまたま、舞踏のテレビを見た。くるくる回る巨大な回転台のうえで、男女が触れるか触れないかの距離でからだを傾けていく。世界のちからの流れに身をまかせながら、こわれそうなからだをうごかしていく。ふたりはもうすぐでふれあう。でもまだふれあわない。愛のはじまる前の作業のように、ふたりはそこにいて、まわりつづける。その舞台の名前は『グレート・ゴースト』だった。偉大なる幽霊たち。

それからわたしは幽霊のことをおもいながらねむったが、でも、わたしが考えていたのは今のことだった。いつもわたしたちは、今にいる。これからの、ずっとこれからの、今に。そうおもいながら、なんのちからもうけず流されず、ねむっていく。すこしずつ陽が射してくる。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター