立ち話のときは紫陽花の鉢を置く

コンビニにいっしゅん立ち寄ったときに長いことつかっていた長くて重いいまいち身に持て余していた傘を誰かに取り違えられもっていかれてしまい、ふっとさしたしゅんかん、重さできづいたんだけれども、あれ、わたしはじぶんがおもっていたよりもずっとあの傘を、あの長くて重い傘を愛していたんだなあとおもう。どんなにしてももうわたしの手にはもどってこなくて、とりちがえた傘をせっかくだから好きになろうとおもっても好きにはなれなくて、でもどこかでまっすぐにむかってくる雨粒をひとつひとつつきさすように、今、だれかから広げられている、あの傘。

それからしばらくひとと会っても傘の話しかしなくて、いやがられた。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター