かりたおかねでソーダ水をいっしょにのもう

内田百閒を読むのがすきなのは、読んでいるうちにじぶんがいったいなにを読んでいるのかわからなくなることだ。じっさい、百閒の文章には、ふわふわういたままぴっぴっとおしっこする猫やざあざあ川の流れる音のする廊下などがでてくる。でてくるひとたちもそういう世界を、みんな、よく、わからなそうにしている。

百閒の文章に、春陽堂からお金をかりて、そのおかねでソーダ水を買って、のむ話があったとおもう。うろおぼえなんだけれど、たしかに書いてあったとおもう。借りたお金でソーダのむんだ、とそのときおもった記憶がある。百閒先生がいう。かりたおかねでソーダをのもうよ。漱石はいわなそうなきもするので、やっぱり百閒先生だったんじゃないかなとおもう。うろおぼえだけど、またきっと、であうとおもう。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター