8月は勇気がいるわ 熊の決断

ちょっと出先でこころのよわい動物のようにうろうろしていたら、どーんとしたクマのソフビをみつける。シルバニアファミリーのようなフロッキー加工。二本の足ですっくと立っている。まっくろのつやつやした体毛に、真っ赤なほっぺが映えている。やすふくさんの絵でもよくどーんとしたクマが出てくるが、わたしは昔から宮沢賢治の「なめとこ山の熊」が好きだし、あの、ばあんとやさしい熊が小十郎を殴ってくるところが好きだし、なんかどーんとした熊とじぶんはかかわりあいがふかいんじゃないかと思って、買ってしまおうとかんがえる。

だれかに相談しようとも思ったが、出先なのでなかなかだれにも熊の相談をできない。じぶんの熊のセンスや熊の判断にしたがって、今、熊の決断をするしかない。わたしはレインコートを着て赤いレインブーツを履いた熊を選んだ。とてもおおきな熊で、猫のような目をしている。無表情だ。これを部屋に飾って、夏の指針にしようとかんがえる。クマによって、わたしは、夏を生き延びようとかんがえる。わたしの眼は腫れ上がっていて、眼科の後だった。馬油を眼につけるのはやめようね、と言われた後だった。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター