ぞうのおうさまがずうっと待っていてくれる

象ってなんかこわいときがある。こないだ、ゾウファントという象の幽霊みたいなオリジナルソフビをみた。ぞうが吼えている。どろどろに溶けている。プーさんに出てくる変幻自在の象のモンスター、ズオウみたいだ。

ダンボにもダンボが酔っぱらうとピンクの象がでてくる。かれら(象たち)は、鼻と鼻をこすりあわせ、爆発し、分裂し、増殖する。

村上春樹さんの小説には、ちいさくなって消える象がでてくる。象の消滅。町からある日象がきえた。それを目撃してしまったぼくはなにかを失うだろう。

レイモンド・カーヴァーにも、失われた父との思い出として、象がでてくる。父親に肩車してもらうわたし。父さんがいう。「だいじょうぶだよ」。象みたいだ、ってわたしはおもう。

夏のあちこちで、わたしは象をみた。わたしもこれからなにかを失うだろう。わかってた。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター