ちがった星の、ちがうひこうき、ちがうさばく。

トークイベントがあった。しつもんに、世界のひとがぜんいん眠りについたら、こんかいのこの本のどのページを思い出しますか、というしつもんがあった。

本の「あとがき」のページにも書いたけれど、ずっと砂漠でひこうきを修理している、ようなきもちになることがある。ひこうきで飛ぶことはできなかった。こわれてた。修理のめどもたたなかった。砂漠なのでゆうじんもいない。陽はまぶしい。風もない。水もつきるかもしれない。あつい。つめたい。星の王子にもあえなかった。ちがったほしの、ちがうひこうき、ちがうさばく。ともだちになってくれるきつねもいない。わがままなおんなのこのような薔薇との思い出も教えてもらえなかった。わたしはずっと砂漠でひこうきを修理している。黄色いスカーフをひろいあげる。ときどき、ちゃんとねむる。

そのページをおもいだすかもしれない。かつてわたしも、なんらかのかたちで飛行機の修理をつづけたことがあった、と。みんながひとりひとりそれぞれのひこうきを修理しつづけているのかもしれない。世界のひとがみんなねむりこんだあとで、みんなひとりずつ、じぶんのひこうきをしゅうりしつづけている。それはわたしだけではないんだって、おもう。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター