【第2回】四つ葉なら、いいよね?

 最近、うちから少し歩いたところにある自販機で、ドクターペッパーが売られていることに気づきました。
 あれ、わりと癖の強い炭酸飲料なので、苦手な人も多いようですけど、ぼくにとっては正統派「胸キュン飲料」です。というのも、高校時代の学校帰りに、ほぼ毎日飲んでいたからです。
 ドクターペッパー。直訳すると、コショウ博士?
 昔は何も考えずに飲んでいましたけど、よくよく考えると、ちょっとおもしろいネーミングですよね。
 さて、そのドクターペッパーを片手に、近所の公園をぶらぶらしていると、芝生の広がりの一角にクローバーの群落を見つけました。和名はシロツメクサ。白い花を咲かせることと、江戸時代にオランダから運ばれてきたガラス製品の入った箱のなかに乾燥させたクローバーがクッション材として詰められていたことから「白詰草」と命名されたと言われています。
 なんて能書きはともかく、ぼくは昔からクローバーの群落を見つけると「血が騒ぐ」タチです。わけもなく幸運の四つ葉ちゃんを見つけたくなるんですよね。
 ところで、四つ葉を見つけるにはコツがあるそうです。いわく、近視眼的に地面に顔を寄せて探すのではなく、空手の達人のように「一箇所を見ているようでいて、全体を眺める」のがいいのだとか。
 そのコツ、誰に教わったのかは忘れました(笑)。
 でもね、たしかに、その方が見つかる気がします。あくまで「気がする」だけですけどね。
 そういえば以前、テレビの深夜放送で、とある小学生の女の子が驚異的な速度で四つ葉を見つけていく様子がオンエアされていました。数秒にひとつくらいの早業で発見しちゃうのです。それを観ていて、ぼくはふと思い出しました。うちの娘も幼稚園生の頃、いとも簡単に四つ葉を見付けていたな、と。テレビのように数秒にひとつとまではいきませんが、30秒にひとつくらいのペースで採っていたのです。
 あのとき、驚いたぼくは娘に訊きました。
「どうやったら、そんなにたくさん見つけられるの?」
 すると娘は平然とした顔でこう言ったのです。
「適当に、あの辺かなぁ、と思って見てると、四つ葉のあるところはボワーって光って見えるから、そこを探すとあるよ」
 これも、いわゆる「空手の達人の目」ですよね。
 で、さっそくぼくも言われたとおりにやってみたのですが、残念ながら娘のレベルには到底及ばず……。それでも、数本は見つけられたので、成果は上々なのでした。
 というわけで、胸キュン飲料をごくごく飲み干したぼくは、久しぶりに「達人の目」でもって四つ葉探しにチャレンジ。
 どこだ、どこだ、と探していたら、いつの間にやら顔がどんどん地面に近づいていって、気づけば腰が直角に折れた老人みたいな姿勢になっていました。達人からはもっとも離れた探し方です。
 でもね、見つけちゃったんですよ。ひとつだけですけど。

ラッキーのおすそわけ

四つ葉を見つけたあとの帰り道は、自然と歩幅も広がります。顔が上がって、空を眺めている時間も増える気がします。
 散歩から帰ってパソコンを立ち上げ、なんとなくSNSを見ると、女性のフォロワーさんが「四つ葉のクローバーを見つけました」と喜びの投稿していました。
 わーお、ぼくと同じタイミングで!
 と、ちょっと感動しながら、その方がアップした写真を見てみると──、なんと、その四つ葉はクローバーではなく「カタバミ」の葉っぱなのでした。クローバーの葉っぱは、ひとつひとつが丸っこいのですが、カタバミは可愛らしいハート形をしているのですぐに見分けがつきます。でも、ぼくは、あえて間違いを指摘せず、そっと「いいね」を押しておきました。カタバミも三つ葉がほとんどで、四つ葉は珍しいですし、ハート形の方がむしろ幸運に恵まれそうですもんね。

これはカタバミです

(写真は全て筆者撮影)

この記事を書いた人
森沢 明夫(もりさわ・あきお)
1969年、千葉県生まれ。小説家。早稲田大学卒業。
吉永小百合主演で映画化された「虹の岬の喫茶店」をはじめ、有村架純主演の「夏美のホタル」、高倉健主演の「あなたへ」など、映画やドラマとして話題になったベストセラーが多い。また、エッセイ、絵本、作詞なども手掛けている。近刊には「エミリの小さな包丁」「かたつむりがやってくる」「水曜日の手紙」「雨上がりの川」などがある。