もしもし、今です。ええ、光です。

古畑任三郎で、「古いゆうじんに会う」という回がある。ふるいゆうじんに会う話だ。古畑はふるいゆうじんに会う。そういう話。なつかしい犬も出てくる。きょうこれから話す話には犬は出てこないけれど。

こないだ思いがけなく、過去に出会ったひとに、出会った。おどろいて、腰がぬけて、いっきに時間がさかのぼって、とにかく謝ったようなきがする。いまがこんなですみません、と。やぎもとくん、とひさびさにくん付けで名前を呼ばれた。やぎもとくん、ずっとしたむいてばかりいるから、とそのひとがいう。めがあったときに。

いろんな過去のひとがやってきて、また、未来のひとになってゆく。あんまり過去も未来もかんけいなくなって、時間はうずやバームクーヘンのようになり、わたしは、今、そのことをだれかに電話で報告したりする。もしもし、今です、と。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター