【第4回】お寺の掲示板が楽しみ

 うちの近くには、日当たりがよくて車がほとんど通らない、私鉄沿線の道があります。ぼくのお気に入りの散歩道のひとつです。
 その道を、Tシャツに短パン、サンダルというお気楽きわまる格好でふらふら歩いていたとき、ふと目についた「書」に足を止めました。
 人生に失敗がないと
 人生を失敗する
   精神科医 斎藤茂太
 お寺の門前につくられたガラスケースのような立派な掲示板のなかに、毛筆で書かれた「書」が貼られていたのです。
 斎藤茂太さんといえば、「モタさん」の愛称で知られた人気のエッセイストでもありました(故人です)が、さすがに上手いこと言うなぁ、と思って写真を撮ってしまいました。

 失敗を経験することって、本当に大事ですよね。
かつて自著にも書きましたが、ぼくは「人生にあるのは、成功と失敗ではなく、成功と学び」だと思っています。
 つまり「失敗=学び」。
 失敗を経験するからこそ、人はそこから学んで、成長して、より味わい深い心豊かな人生を送れるようになる。そんな気がしているんです。
 きっと斎藤茂太さんが残されたこの名言も、ほとんど同じ意味なんだろうな、と思って、ぼくは空を見上げました。
 そういえば、以前もこの掲示板にちょっと素敵な名言が張り出されていたので紹介しますね。
 拍手されるより
 拍手する方が
 心は豊か
   俳優 高倉健
 
 この言葉も、ぼくには響きました。
 他人の美点を見つけて、そこに素直な拍手を送れる人って、ほぼ間違いなく心が豊かな人ですもんね。
 もっと言えば、他人のことまで拍手して喜べる人は、自分の喜びと他人の喜び、それら両方を喜べる「人生に喜びが多い人」とも言えます。

 たった一度の人生、喜びの数は単純に多いに越したことはないはずです。ならば、高倉健さんの言うように、心豊かな「拍手する人」でいよう──、なんて思いつつ、でも、やっぱり欲のあるぼくは、たまには拍手も欲しくなっちゃうんですよねぇ(笑)
 散歩の途中にこういう名言と出会えると、ちょっと得をした気分になれます。
 誰もが見られる掲示板に、わざわざ「書」を書いて貼って下さるお寺の住職さん(かな?)に素直に感謝しつつ──、
 拍手!
 次はどんな名言と出会えるのか楽しみにしながら、また、ふらっと通りかかろうと思います。
(写真は全て筆者撮影)

この記事を書いた人
森沢 明夫(もりさわ・あきお)
1969年、千葉県生まれ。小説家。早稲田大学卒業。
吉永小百合主演で映画化された「虹の岬の喫茶店」をはじめ、有村架純主演の「夏美のホタル」、高倉健主演の「あなたへ」など、映画やドラマとして話題になったベストセラーが多い。また、エッセイ、絵本、作詞なども手掛けている。近刊には「エミリの小さな包丁」「かたつむりがやってくる」「水曜日の手紙」「雨上がりの川」などがある。