【第5回】オシロイバナでパラシュート

 小中学校時代の通学路をのんびり歩いていると、赤いランドセルを背負った2人の少女たちと出会いました。
 見た感じ、小学2年生くらいでしょうか。
 2人は車通りの少ない住宅地の道端で、キャッキャと楽しそうにはしゃいでいます。
 何をしているのかな?
 すれ違いざまにチラリと視線を送ったぼくは、微笑ましさのあまり思わず目を細めてしまいました。
 少女たちはオシロイバナを摘んで、パラシュートにして遊んでいたのです。
 この遊び、ぼくも子供の頃によくやったなぁ……。
 いやぁ、なつかしい。
 オシロイバナは、たいてい夕方前くらいに咲きはじめて、翌日の午前中にはしぼんでしまうという、ちょっと短命な儚い花なので、日本では「夕化粧」などと風流な名前で呼ばれたりもしています。ちなみに午後4時くらいから花開く様子から、英語では「フォー・オクロック=(4時)」というそうです。
 ひらひらと花びらのように見えている部分は、じつは「ガク」で、その「ガク」の根元にある緑色の丸い塊の中身が種子です。
 熟して黒くなった種子を割ると、なかには白い粉末が入っているのですが、この粉を化粧に使う「おしろい」に見立てたことから「オシロイバナ」と命名されたという話は、もはや釈迦に説法ですよね?

オシロイバナ

 
 散歩の帰り道。
 ぼくは、あえて同じ道を引き返してきました。
 オシロイバナのところには、もう少女たちの姿はありませんでした。
 よし、久しぶりに、やってみようか──。
ぼくは、なるべく大きくて形のいいオシロイバナをひとつ摘むと、種子を包んでいる緑色の「ほう」をむしり取り、むき出しになった種子をやさしく引っ張りました。

苞ごとおもりにするパターン

 種子は雌しべとつながっているので、するすると紐状の雌しべが引き出されてきます。
 これで「パラシュート」の完成。

種子だけを錘にするパターン

 やわらかな秋風が吹く高い空に向けて、ぼくは何十年振りかに自作の「パラシュート」を放り投げました。
 オシロイバナ自体が軽いので、ほとんど高くは飛びません。
 落下してくる様子もふらふらと不安定で、「パラシュート」と呼ぶにはあまりにもお粗末です。
 でも、いいんですよね、これはこれで。
 ぼくはなんだかしみじみ嬉しくて、足元にぽとりと落ちたオシロイバナを拾い上げては、もう一度、秋空に向かって「それっ」と放り投げたのでした。

秋空に投げて遊びました

 すると今度は、さっきよりも幾分マシな「パラシュート」になりました。
(写真は全て筆者撮影)

この記事を書いた人
森沢 明夫(もりさわ・あきお)
1969年、千葉県生まれ。小説家。早稲田大学卒業。
吉永小百合主演で映画化された「虹の岬の喫茶店」をはじめ、有村架純主演の「夏美のホタル」、高倉健主演の「あなたへ」など、映画やドラマとして話題になったベストセラーが多い。また、エッセイ、絵本、作詞なども手掛けている。近刊には「エミリの小さな包丁」「かたつむりがやってくる」「水曜日の手紙」「雨上がりの川」などがある。