まちがって影が帰ってくる

冬に入るまえに、ぞうやゆきだるまや詩人が仲間になるゲームをした。ロブスターも仲間になる。みんなでひとつずつ世界の門を閉めていく。やがて日食がやってくる。かれらとはちがう惑星にわたしはいる。

すごくきんちょうすることがあって、毎日、じぶんがまちがってるようなきがしながら、生きていた。ひとに電話をかけて、なにかがまちがっちゃってるきがする、いつもあわててて、誰かに何かを渡し間違えたきがする。でもそれがいつの時点で、なんだったのかもわからない。でも、まちがってるきがする、とでんわをかける。相手は、あたまがそわそわするんだよね、そうだよね、という。いや、あたまはべつにそわそわしないけど、とわたしはいう。でも言い方にこだわってるわけじゃないよ、なんとなくつうじて、なんとなくわかりあったならそれでいい。わたしは電話を切る。

もう冬に入ろうとしている部屋でふとんをかぶりながら、ドラマ「ツイン・ピークス」の新しいバージョンを見る。かつてのクーパー捜査官は消えたが、影がかえってくる。わたしにもよくはわかっていない。帰ってきたクーパー捜査官は一日中夜まで、気になった銅像をさわってる。警察官が補導しにやってくる。おい、いったいなにしてるんだ? バッジにさわるなよ、と。シーンが切り替わり、白黒の部屋では、背の高い男が浮かびあがり、浮きながら頭から金色の霧を放射する。その霧は惑星にむかう。うすぐらい部屋でわたしは見ている。これどういうストーリーなんだっけなあ、なんで結婚しなかったのかなあとちょっと思う。ふとった女がうたっている。まちがってても、どうにかなる日々もあるんだろうか。まだうけいれてはいないけれど、そういう日々もあるんだってことを、たまたま目にしたツイン・ピークスが教えてくれる。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター