まってまって
バームクーヘン
だったようなきもするし

詩の教室「buoyの会」に呼んでいただき詩人の松下育男さんと対談した。

話しながら、いま、すわってこうして話しているわたしはにせもので、真剣に、こちらをみて、なにか書いて、あつまって、くびをかしげて、ときどきうなずき、わらい、わらわず、わたしの話を聞いてくれているひとのほうがほんものなんじゃないかなあと、おもった。

あなたたちが、みなさんがいつもことばを持っているとおもうんです、いつも、いつも、とふと口をついて出た。

松下さんがいう。やぎもとさんの書くものって、じんせいをわかったふりをするひとたちがでてくる。でもわかったふりをすることでわかってしまうことがある。そういうひとたちがでてくる。

いつもことばはあなたからやってくる。そのかんがえはずっと変わらない。松下さんがひとりひとりの詩にひとつひとつそのつどことばを送っていくのを聞きながらもそんなふうに思った。詩は、ことばは、いつもわたしじゃなくて、むこうからやってくる。まってると。

ずっとまってるじんせいのようなきがする。そんなまっててどうするの、と通り過ぎていったひとに、くりかえし、念をおすように、ときどき肩をゆすられながら、なんかいか、いわれたが、それでも、まちながら、いろんなところにときどき出かけていって、まったひととしてことばを話しはじめる。

そのあとわたしは不思議の国のアリス展にひとといった。「ちょっとまって」とわたしはいった。「なに」 ポスターをみあげたら、こう書いてあった。

「だったら好きな方へいけばいい」


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター