【第6回】ツバキ笛をオトナが鳴らすと

 夜のあいだに猛烈な嵐が通過しました。
 自宅がぐらりと揺れるほどの暴風雨だったので、真夜中にひとりハラハラしながら原稿を書いていましたが、朝になって外に出ると、何十年も前からある庭木(けっこう太い)が一本倒れていただけで、その他はなんとか無事でした。
 いやはや、怖かったなぁ……。
 嵐のあとの散歩って、独特の雰囲気がありますよね?
 汚染された空気が吹き飛ばされてしまうからでしょうか、違和感を覚えるほどに空気が清浄な気がしますし、木々の枝葉やゴミなどが道に散乱しているので、普段は味わわないような殺伐とした荒涼を感じて、なんだか胸がざわざわします。腐葉土に似た湿り気のある匂いも独特です。
 この日の散歩道も、やっぱり嵐の後だけあって枝葉やゴミがそこかしこに散乱していました。
 歩きはじめてすぐのこと、ぼくは何やら固いモノを踏んづけたらしく、靴の裏でパキッと乾いた音が鳴りました。
 いったい何を踏んだのか、気になって足元へと視線を落とすと、散乱した枝葉に混じって、いたるところに焦げ茶色の物体が転がっていることに気づきました。
 正体は、ツバキの実でした。
 嵐で枝が揺すられて、実がまとめて落ちたのでしょう。

嵐で落ちたツバキの実

 ツバキの実といえば、いわゆる「椿油」が取れることで知られていますが、ぼくにとっては「遊びのタネ」です。
 じつは、とても簡単な作業で、ものすごく大きな音の出る「ツバキ笛」が作れるのです。
 子どもの頃、ぼくはこの笛を作っては、遠くにいる友達に何かを知らせる合図として吹きまくっていました。
 作り方は、とてもシンプルです。
 まず、ツバキの実の尖った部分をコンクリートなどにガリガリとこすりつけて削るのですが、これが、なかなか大変。ツバキの実は固いので、とりわけ子どもにとってはひと仕事になります。でも、根気よくやってさえいれば、小学校低学年の子どもでもできるので、あきらめずにやってみましょう。なるべくザラザラしたコンクリートを見つけてこすりつけると早く穴が空きます。
 直径五ミリくらいの穴が空いたら、削る作業は終了。今度はその穴に細くて丈夫な木の枝などを突っ込んで、なかの椿油をすべて掻き出します。ステンレスの耳かきを使うと、より簡単に、しかもきれいに掻き出せます。
 椿油をすべて出せたら完成です。
 笛の鳴らし方もいたってシンプルです。
 いわゆる空き瓶を鳴らすのと同じ要領で、空けた穴に斜め横から息を吹き込みます。このとき、唇を細くして、思い切り吹くのがコツです。
 すると、ピーッ! と非常に甲高い音が鳴ります。はっきり言って、近くにいる人は耳を塞ぎたくなるくらい大きな音が出ます。なので、良い子は(もちろん大人も)人の耳元で吹いたりするのはやめましょう。
 この日のぼくは、とりあえずいくつかのツバキの実をみつくろって拾い、ジーンズのポケットに入れました。そして、そのままぶらぶらと散歩をして、帰宅後はすかさず自宅のブロック塀に実をガリガリとこすりつけたのです。
 子どもの頃は、なかなか空かなかった穴も、オトナのパワーでこするとあっという間だったので、完成したツバキ笛のありがたみが昔とはかなり違うことに気づいてしまった秋の夕暮れ……。

完成したツバキ笛

 さて、あまり苦労せずに完成させたツバキ笛に、またしてもオトナのパワーで息を吹き込み、思いっきり笛を鳴らすと──。
 ビイイイイイイイ!
 自分の耳がキーンとなるレベルの音が炸裂!
 ぼくは思わず笑いながら自分で「うるさっ」とつぶやいてしまいました。
 でもね、気分は上々なのです。
 お子さんがいる方は、ぜひ一緒に作って遊んでみてくださいね。
(写真は全て筆者撮影)

この記事を書いた人
森沢 明夫(もりさわ・あきお)
1969年、千葉県生まれ。小説家。早稲田大学卒業。
吉永小百合主演で映画化された「虹の岬の喫茶店」をはじめ、有村架純主演の「夏美のホタル」、高倉健主演の「あなたへ」など、映画やドラマとして話題になったベストセラーが多い。また、エッセイ、絵本、作詞なども手掛けている。近刊には「エミリの小さな包丁」「かたつむりがやってくる」「水曜日の手紙」「雨上がりの川」などがある。