アウトロー俳人・北大路翼さんが、半自伝的エッセイ『廃人』刊行にあたり、いま気になる人物と語りあう対談シリーズ『人生すべてが俳句の種。』。
第2弾は、プロ雀士とグラビアアイドル、ふたつの顔を持つ高宮まりさんをゲストに迎えます。可憐な見た目からは想像できない攻撃的な雀風であることから、キャッチフレーズは“淑女なベルセルク(異能の戦士)”。2018年に発足して以来、大いに盛り上がっている麻雀プロリーグ戦「Mリーグ」では、KONAMI麻雀格闘倶楽部の紅一点として活躍しています。
北大路さんはこの日、KONAMI麻雀格闘倶楽部のユニフォームに合わせて、緑のストライプシャツを身にまとい、対談場所の日本プロ麻雀連盟夏目坂スタジオに現れました。俳句と麻雀という異種対談のスタートです。

北大路翼さん(左)、高宮まりさん


「健康麻雀」の流行、「Mリーグ」発足で変わった麻雀業界
── 北大路さんは、かなり麻雀がお好きだそうですが、Mリーグはご覧になっていますか?
北大路翼(以下、北大路) もちろん。ほぼ全試合を見ているくらい、麻雀大好きです!
高宮まり(以下、高宮) ありがとうございます。
北大路 じつは10年くらいまったくやらない時期があって、AmebaTVで麻雀番組を放送するようになってから、麻雀熱にまた火がついたんです。僕の知らない間に、技術や読みの精度、それに麻雀を取り巻く環境がすっかり変わっていて驚きました。

高宮 そうなんです。賭けない、飲まない、吸わないという「健康麻雀」が流行ったところに、Mリーグという新しい風が吹いて、麻雀業界は大きく変わりましたから。
北大路 かつてはギャンブルのイメージが強かったこともあり、ダークな印象があった麻雀が、なんて言うか、クリーンな麻雀に変わった気がします。
高宮 女性限定の教室も増えましたしね。私が麻雀をはじめた頃は、女性のプレーヤーもまだ少なくて、雀荘に行っても「ほんとに打てるの?」とか、「女の子は下手だから」なんて平気で言う人が結構いましたけど……。
北大路 イラッとしたでしょ。
高宮 そう言われるたびに「男か女かじゃなくて、経験や上達の度合いが人によって違うだけでしょ!」って、めっちゃ反応してましたね。いまでは女性のプロも増えて、和久津(晶)さんのように、男女混合の最上位リーグに所属する選手も出ていますし、あからさまな嫌味はあまり言われなくなりました。
北大路 俳句の世界も、いまは女の人多いですよ。昔は荒くれものの男たちが集まって、「女は来るな」みたいな感じで俳句をつくっていたらしいけど、平成のはじめの頃に起きたカルチャースクールブームからはじまって、いまでは7割が女性です。
高宮 カルチャースクールの麻雀教室では、女性が9割だそうです。奥さんに連れられてきた旦那さんが、女性だらけの教室で居心地悪そうにしているのを目にするくらい、女性が麻雀をするのは当たり前という時代になりました。
北大路 それにしても、Mリーグという華やかな舞台ができたのは、うらやましい。僕はずっと「俳句をプロ化したい」と言い続けているんです。俳句の場合は勝ち負けがつかないから、どういう基準でプロにするかは難しい問題なんだけど……。さておき、そもそも人に注目されない限り、なんでも広まるわけがない。Mリーグができたことは快挙だし、選手それぞれのキャラが立ってるのもすばらしいです。
高宮 そう言っていただけると、Mリーガーとしてうれしいです。
北大路 今年のMリーグで一番印象に残っているのは、なんといっても前原雄大さん(KONAMI麻雀格闘倶楽部)のあのポーズ。10月22日の試合で勝ったとき、人差し指を天に突き上げたあの姿は最高でした。

高宮 ふふふ。あれには賛否両論ありましたけど、それだけインパクトがあったということですね。
北大路 誰もやらなかったことをやる、既成概念を壊すというのは、まさに僕がやりたいこと。俳句も静かに大人しくしなくちゃいけない、こうあらねば、みたいな考えが根強くあって、そういうのを僕はずっと壊したいと思ってきたんです。あの姿を見たとき、感動すら覚えましたもん。高宮さんも、今度勝ったらやってくださいよ。
高宮 そうですね、考えておきます(苦笑)。

麻雀をすると、自分や人のことがよくわかる
── ところで、おふたりが麻雀をはじめたきっかけは?
高宮 麻雀というものを意識しはじめたのは、中高生の頃ですね。漫画の『だめんず・うぉ〜か〜』(倉田真由美・著/扶桑社)を読んで、サブカルに憧れるのと同じような感覚で麻雀に興味を持ちはじめました。周囲に麻雀をする人はいなかったけど、ちょうどその頃ネット麻雀が流行りはじめていたので、意外と簡単に麻雀に入ることができたんです。
北大路 本や漫画からの影響って大きいですよね。僕もそう。中学生で麻雀をやってみたいと思い、僕が最初に読んだ入門書は作家の五味康祐さんが書いた『五味マージャン教室』(カッパ・ブックス)でした。漫画だと『麻雀飛翔伝 哭(な)きの竜』(能條純一・著/竹書房)が好きで、よく真似したなぁ。高校生のときに全自動卓を買ってからは、友だちを毎晩集めてやってました。
高宮 えっ、毎晩?

北大路 (大きくうなずき)高校から大学卒業するまでずっと、毎日。
高宮 それはすごい。私は実際に人を相手に打つようになったのは、20歳になってからです。
── 毎日やっても飽きない麻雀。プロから見て、その魅力はどういうところにあるのでしょう。
高宮 「何度やっても同じことはない」のが、麻雀の大きな魅力ですね。私は麻雀をはじめた頃、純粋にゲームとしての面白さにのめり込んでいて、テクニックの部分を重視していたから、「麻雀は人だ、人生だ」なんて言われても、ピンと来なくて「なに言ってんの?」と反発を覚えたほど(笑)。でも、最近になってようやく、その言葉が腑に落ちるようになりました。せっかちなところ、短気なところ、雑な部分など、自分の悪い部分が全部、麻雀には出てしまう。麻雀のおかげで、自分のいいところも悪いところも、よくわかりました。
北大路 自分で発見したいい部分はなんですか?
高宮 私は意外と気が強い、ということ(笑)。ふだんは前に出るタイプではないけれど、思いのほか負けず嫌いだし、打たれ弱くもないみたい。北大路さんは、麻雀で自覚したことってありますか?
北大路 あらためて自分は気が短いなと。でも、麻雀だと調子が悪くても、全部自分のせいだと思うから納得はできます。
高宮 人のせいにするか、自分の責任だと思うか。一緒に麻雀をしたり、麻雀の話をしたりすると、その人が「自責論者」か「他責論者」か、すぐわかりますね。
北大路 僕は麻雀では自責論者だな。
高宮 私もそうです。勝ち負けだけでなく、自分や人のことがよくわかるというのも麻雀の面白さだと思います。
── 最近はネットでしか麻雀をしない人もいますが、それについてどう思いますか?
高宮 私もネットから入りましたけど、対人戦には対人戦の醍醐味があります。ネットゲームで麻雀の面白さを知った人は、ぜひリアルな麻雀も体験してみてほしいですね。
北大路 相手の表情やその場の空気感、局面ごとの緊張感も、ネットとリアルでは全然違うから。
高宮 それに、自分が負けているときに不機嫌になったり、牌を出した人に「また、それ出した」とか言って馬鹿にしたりするのはマナー違反。人と打つことで、マナーや気遣いの部分も学べます。いまは業界全体で初心者を受け入れようという流れになっていますし、以前より入りやすい環境にあると思うので、興味がある人は、本当の麻雀ならではの醍醐味を感じてほしいです。
北大路 まずはMリーグを観て、ですね。
高宮 そうですね(笑)。Mリーグでは去年から開催しているパブリックビューイングもありますし、今年からは「Mリーグプレミアムナイト」という会場の規模が大きくなった特別版も開催されます。プレミアムナイトでは試合観戦だけでなく、トークショーやプレゼント抽選会も行われるので、リアルな麻雀がはじめての人でも楽しんでいただけると思います。


「言葉を絞り出す」、「牌を切る」のは、怖いこと
── 高宮さんは、試合に臨むとき、なにかげんかつぎはしてますか?
高宮 験かつぎはしませんが、体調を整えることには気をつけています。麻雀の試合はかなり体力を消耗するし、精神力を維持するためにも体力は必要です。だから、ちゃんと寝る、きちんとご飯を食べるという基本的なところを大事にしようと。外食ばかりだと身体に悪いから、ほんとは自炊したほうがいいんですけど……。
北大路 これとこれを合わせるとこういう味になる、というように料理って組み合わせだから、きっと麻雀の修業にもなりますよ。
高宮 たしかに。筋道を立てて、手順を考えるのは麻雀にも役立つかもしれませんね。料理は苦手だから、つい後回しにしていますが、筋トレは続けているので、おかげでひどかった肩こりがだいぶ楽になりました。
北大路 筋トレか……、やっぱり筋肉は大事なんですね。腰が痛くて、よくマッサージに行くんですが、「筋肉がなさすぎて、マッサージのし甲斐がない」とマッサージ師にあきれられています(苦笑)。俳句もつくり続けるためにも体力が必要だと、わかっちゃいるけど毎晩飲んじゃうんですよね。ところで、高宮さんはお酒、飲むんですか?
高宮 残念なことに、飲めないんです。飲めたら人生楽しいだろうし、飲める人がうらやましい。
北大路 麻雀は酔っぱらったらできないけど、俳句は飲んだほうがいい句ができることもありますからね。
高宮 お酒を飲むと、心の深い部分が呼びおこされたりするんでしょうか。
北大路 いろんな束縛からフリーになる、というのかな。やっぱり言葉を絞り出す行為って怖いんです。その怖さが酔うことで軽減されるのかもしれない。
高宮 牌を切るのも勇気がいりますよ。押すのも怖いし、押さないのも怖い。麻雀の場合は、試合中にお酒は飲めないし、その前にそもそも私は飲めないんですけど(笑)。試合の前に心と身体を整えておくことで、怖さで判断が鈍らないようにしています。
北大路 さすが「格闘倶楽部」ですね!
〈後編〉につづく)
KONAMI 麻雀格闘倶楽部(コナミマージャンファイトクラブ)

アーケード・スマートフォン・PCなどで展開する麻雀ゲーム「麻雀格闘倶楽部」の名を冠した、株式会社コナミアミューズメントによるMリーグクラブチーム。チーム創設メンバーである佐々木寿人(写真左上)、前原雄大(同左下)、高宮まり(同右上)は “攻撃型”。2019年からは“守備巧者”の藤崎智(同右下)も加わり、チーム一丸となって、No.1を目指す。
『Mリーグ プレミアムナイト』
900名超の会場で行われる大迫力のパブリックビューイング。ステージコンテンツでは「場決め」、登壇選手による「トークショー」などが行なわれる。
[日程] 2020年2月3日(月)  ※開催時間は、公式Twitterなどで順次公開予定
[会場] EXシアターhttp://www.ex-theater.com/access/
[解説] 赤坂ドリブンズ、EX風林火山、渋谷ABEMAS、TEAM RAIDEN/雷電
『半自伝的俳句エッセイ 廃人』
(春陽堂書店)北大路翼・著

“人生すべてが俳句の種”と語るアウトロー俳人・北大路翼初のエッセイ集。書き下ろし俳句も多数掲載したエッセイ48篇、2万句を超える過去作品からの肉筆自選23句、俳句をつくる実践的なテクニックを指南する俳句塾など、北大路翼が俳句をとことん遊びきった渾身の一冊。
●高宮まり(たかみや・まり) プロ雀士/グラビアアイドル
1988年11月8日、茨城県生まれ。日本プロ麻雀連盟27期生。地方リーグチャンピオンシップ2019優勝、第1回 女流プロ麻雀日本シリーズ優勝、第11回 女流モンド杯優勝、第8期 夕刊フジ杯争奪麻雀女王。2018年のMリーグ発足時から、KONAMI麻雀格闘倶楽部に所属。写真集やDVDもリリースするなど、グラビアアイドルとしても活動中。最新スケジュールは『高宮まりオフィシャルブログ まりさんぽ』( https://ameblo.jp/mari—joy/ )まで。
●北大路 翼 (きたおおじ・つばさ)  新宿歌舞伎町俳句一家屍派 家元/砂の城 城主
1978年5月14日、神奈川県横浜市生まれ。小学五年頃、種田山頭火を知り、自由律俳句をマネたモノを作り始める。反抗期に俳句がぴったりと同調。高校在学時、今井聖に出会い俳句誌「街」創刊と同時に入会。童貞喪失を経て詩誌「ERECTION」に参加。2011年、作家・石丸元章と出会い、屍派を結成。2012年、芸術公民館を現代美術家・会田誠から引き継ぎ、「砂の城」と改称。句集に『天使の涎』(第7回田中裕明賞受賞)、『時の瘡蓋』、編著に『新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」アウトロー俳句』『生き抜くための俳句塾』。

写真 / 隈部周作
取材・文 / 山本千尋