アウトロー俳人・北大路翼さんが、半自伝的エッセイ『廃人』刊行にあたり、いま気になる人物と語りあう対談シリーズ『人生すべてが俳句の種。』。
大の麻雀ファンであるアウトロー俳人・北大路翼さんと、プロ雀士でMリーガーの高宮まりさん。ふたりとも自称“人見知り”とのことですが、〈前編〉では、麻雀をはじめたきっかけやMリーグ、そして高宮さんご自身についての話に花が咲きました。〈後編〉は、俳句と麻雀について。一見まったく違う俳句と麻雀には、似ているところがいくつもあるようです。

北大路翼さん(左)、高宮まりさん


初級1年、中級3年、道を究めるには50年かかる
── 俳句と麻雀。どちらも難しそうですが、上達するまでにどれくらい時間がかかるものでしょうか。
北大路翼(以下、北大路) 俳句の場合は、ルールを身につけて楽しめるようになるまで、だいたい1年くらいかな。3年くらいで中級のある程度まではいけると思いますが、上級に達するには50年かかると僕は思っています。1年、3年、50年という区切りが成長の目安じゃないでしょうか。
高宮まり(以下、高宮) 50年だなんて仙人みたいですね(笑)。麻雀の場合は、どれくらいの頻度でやるかにもよりますが、本を読むなど、毎日麻雀に触れていれば、基本的なルールは1か月くらいで覚えられると思います。そこから実践を交えて身につくのは3年くらい。そこから仙人のようになるには……。たしかに50年かかるかもしれない。俳句と一緒ですね。
北大路 そうでしょ。本当に道を究めるにはそれくらいかかるんです。ところで、麻雀で超一流になる条件ってなんだと思いますか?
高宮 超一流、レジェンドと呼ばれる人たちに共通するのは、みんな自分のスタイルを確立していることだと思います。人には、合う合わないがあって、まず自分のスタイルを見極めるまで、ある程度時間がかかりますから。
北大路 高宮さんが自分のスタイルを意識したのは、いつ頃ですか?

高宮 去年(2018年)ようやく「耐えて我慢するより、前に出て戦うほうが向いている」ということが、はっきりわかりました。プロになってから、7~8年かかってしまいましたね。
北大路 もしかして、去年の後半からじゃないですか
高宮 はい、まさにその時期です。
北大路 やっぱり。雰囲気や顔つきが変わったな、と思ってたんですよ。
高宮 わかっちゃいましたか。Mリーグが始まった当初は、佐々木寿人さんと前原雄大さんというレジェンド級の先輩と同じチームになり、「迷惑かけちゃいけない」と萎縮していたところがいま思えばありました。1回戦でラスト(4番目)になってしまったあと、「2戦目どうする?」と聞かれたときに、「もうこれ以上甘えられない!」と自分から連投することを申し出ました。そのことをきっかけに心が定まったというか、「自分のスタイルはこれだ」と思えるようになったんです。
北大路 Mリーグの試合を見ていると、選手が入ってきた時点で「今日、この人勝つな」と感じることが多くて、それが結構当たるんです。メンタルは顔に出ますからね。
高宮 この間、ラストになった試合のときも、何人かに「出てきた瞬間、負けると思った」って言われました。やる気は満ちあふれていたんですけど、空回りしちゃってたみたいで……。
北大路 気合いが入りすぎて、アドレナリンが大量に分泌されたのかもしれないですね。力が入りすぎても抜きすぎてもダメ。麻雀は素人だけど、客観的に見ていて、ほどよい“卓の入り方”というのがあるんだろうなと感じています。
高宮 確かにありますね。そういうところがスポーツと通ずる部分だと思います。20代の頃は、プレーヤーズ解説をするときも、当たり障りのない言葉でオブラートに包んで伝える傾向にありました。でも、30代になって、前に出ていくのが自分のスタイルだと方向性が見えてきてからは、主張すべきことはしないといけないなと思うようになり、いまは1枚ずつオブラートをはがす作業をしている最中です。そこから仙人の域に達するには、何年かかるでしょうね。
北大路 あと50年ですよ(笑)。
高宮 そしたら、80歳越えちゃう。
北大路 その頃、僕はもうこの世にいないんだろうな。
高宮 そんなこと言わないで、私の麻雀スタイルが確立するまで、生きててくださいよ!
北大路 じゃ、それまで、なんとか頑張りますか。

俳句が完成して、発表するときは「ロン!」の状態
── 俳句を広めるために、北大路さんは、「見せる」ことをテーマにされているそうですね。
北大路 そう、多くの人に知ってもらうには、見せないとはじまらない。俳句の世界には、まだまだ「俳人たれ!」みたいな風潮が残っているから、僕はわざとアウトローぶって・・・見せているわけです。

高宮 麻雀もプロの世界には、そういうところはありますよ。麻雀には団体がいくつかあって、それぞれカラーが違うんですけど、私が所属する日本プロ麻雀連盟は、どちらかというと体育会系だから、「真面目であれ!」という空気は感じます。私がグラビアなど麻雀以外のお仕事をしていることをよく思わない人も、なかにはいるかもしれません。
北大路 麻雀業界以外で高宮さんが活躍すれば、麻雀を広めることにつながるのに。ところで、グラビアの仕事と麻雀のプロ、どちらが先だったんですか?
高宮 プロになったのが先です。そもそも水着になったのは、日本プロ麻雀連盟のカレンダー撮影がきっかけですから。
北大路 じゃ、むしろ麻雀の仕事を真面目にやったからこそ、はじまったグラビアとも言える。
高宮 そうですね。ほかの仕事をすることで批判されることもありますが、違うジャンルの仕事をすることで、麻雀を知らなかった人にも興味を持ってもらうきっかけになればいいなと思っています。それにしても、まさか俳人の方と接点ができるとは思ってもいませんでした。新刊の『廃人』読ませていただきましたが、麻雀の句もあるんですね。
北大路 この本に収録した麻雀の句は、「リーチ棒出せば耀く大西日」「晩夏光所美しき女流プロ」ぐらいですね。例えば、ラグビーは冬の季語ですが、麻雀は室内でするし、季節も関係ないから季語がつけづらい。だから、麻雀で句をつくるのは、なかなか難しいんですよ。そういえば、前に一度、麻雀パイの文字を使って俳句をつくれないか実験したことがありました。
高宮 できました?
北大路 で国士無双と読ませたり(笑)。難しいな。それにしても、牌の文字って美しいですよね。
高宮 そうなんです。よく見ると、結構おしゃれ。

北大路 俳句は難しい漢字を使うことが多いんです。僕がこれまでに出した句集『天使の涎』、『時の瘡蓋』もそうですが、ルビを打つのがイヤでね。「ああ、“よだれ”ってこんな漢字書くのか」「なんだ、“かさぶた”のことか」って、わからない漢字や言葉に出合ったら、調べて自分のものにしてほしいと思う。なんでもかんでもやさしくしすぎるのは、よくないんじゃないかなって。
高宮 いまのお話を聞いて、子どもの頃、「本を読むために辞書を引くのは勉強になる」と言われたのを思い出しました。私、もとは文系なんです。
── 麻雀は、理系の頭が必要ですよね。
高宮 ええ。麻雀自体は理系なんですが、私は文系のほうが得意で、数学は苦手でした。高校のときに理系の先生から「お前は文系に行ったら、なんとなく人生過ごすだろうから、一度理系に来てみたら?」と言われて、理系を選択したんです。いま思えばそれからですね、チャレンジ精神が生まれたのは。あのまま文系に進んでいたら、「計算なんてめんどくさい」って、麻雀も習得できなかったかもしれません。
北大路 それがひとつの転機だったんですね。僕は文系だけど数字が好きで、俳句をやる人のなかにも理系の人は多いんですよ。五・七・五、文字の組み合わせでパズルみたいなものだから。
高宮 俳句は無限に生み出せますね。
北大路 そう。単語レベルで変えていけば無限だし、そういうところも麻雀に近いのかもしれない。考えに考え抜いて、最後の一文字を書いたときが「お、ツモったな」という状態。きれいな形に組みあがって人に句を発表するときが「ロン」!ですね(笑)。
高宮 なるほど。麻雀で例えていただくと、すごくわかりやすい。私も俳句に挑戦してみたくなりました。
高宮 ぜひ。もともと文系が得意な雀士なら、きっとできます。

俳句と麻雀。どちらも、“正解”がない
── 麻雀だとチーム戦、俳句だと句会。ひとりでするのとチームでやるのは違いがありますか?
北大路 俳句は“連衆”というくらい、もともと人が集まって行う“座”の文学。五・七・五、短いからこそ、ちゃんと人に伝わるか、確認する場でもあるんです。
高宮 麻雀もチームメイトや仲間から指摘されて、はじめて間違いに気づくことがよくあります。もちろん、意見が違ってケンカになることもありますが……。
北大路 俳句も麻雀も“正解”がないから。
高宮 そう、その人がなにに重きを置いているかによっても違いますしね。麻雀だと、早さか高さか。守備か攻撃か。真剣になればなるほど人とぶつかるんですが、ぶつかることで新たな気づきが得られます。
── 最後に、これからの目標をお聞かせください。
高宮 鳳凰位などのタイトルは狙いつつも、目標はその先。レジェンドの先輩たちがいる、山のてっぺんに登ってみたい。いつか自分のスタイルを究めた麻雀が打てるようになって、“麻雀仙人”みたいな境地にたどり着きたいですね。
北大路 じゃ、僕は、それを見届けてから死ぬことを目標にします。そのときは、昇天ポーズを復活させてください。
高宮 アハハハ。お酒飲みすぎて身体壊さないよう、それまで長生きしてくださいね!
北大路 は、はい、頑張ります。

※ 画像は麻雀ルール解説でおなじみの「麻雀の雀龍.com」の無料麻雀牌画を利用しています。
KONAMI 麻雀格闘倶楽部(コナミマージャンファイトクラブ)

アーケード・スマートフォン・PCなどで展開する麻雀ゲーム「麻雀格闘倶楽部」の名を冠した、株式会社コナミアミューズメントによるMリーグクラブチーム。チーム創設メンバーである佐々木寿人(写真左上)、前原雄大(同左下)、高宮まり(同右上)は “攻撃型”。2019年からは“守備巧者”の藤崎智(同右下)も加わり、チーム一丸となって、No.1を目指す。
『Mリーグ プレミアムナイト』
900名超の会場で行われる大迫力のパブリックビューイング。ステージコンテンツでは「場決め」、登壇選手による「トークショー」などが行なわれる。
[日程] 2020年2月3日(月)  ※開催時間は、公式Twitterなどで順次公開予定
[会場] EXシアターhttp://www.ex-theater.com/access/
[解説] 赤坂ドリブンズ、EX風林火山、渋谷ABEMAS、TEAM RAIDEN/雷電
『半自伝的俳句エッセイ 廃人』
(春陽堂書店)北大路翼・著

“人生すべてが俳句の種”と語るアウトロー俳人・北大路翼初のエッセイ集。書き下ろし俳句も多数掲載したエッセイ48篇、2万句を超える過去作品からの肉筆自選23句、俳句をつくる実践的なテクニックを指南する俳句塾など、北大路翼が俳句をとことん遊びきった渾身の一冊。
●高宮まり(たかみや・まり) プロ雀士/グラビアアイドル
1988年11月8日、茨城県生まれ。日本プロ麻雀連盟27期生。地方リーグチャンピオンシップ2019優勝、第1回 女流プロ麻雀日本シリーズ優勝、第11回 女流モンド杯優勝、第8期 夕刊フジ杯争奪麻雀女王。2018年のMリーグ発足時から、KONAMI麻雀格闘倶楽部に所属。写真集やDVDもリリースするなど、グラビアアイドルとしても活動中。最新スケジュールは『高宮まりオフィシャルブログ まりさんぽ』( https://ameblo.jp/mari—joy/ )まで。
●北大路 翼 (きたおおじ・つばさ)  新宿歌舞伎町俳句一家屍派 家元/砂の城 城主
1978年5月14日、神奈川県横浜市生まれ。小学五年頃、種田山頭火を知り、自由律俳句をマネたモノを作り始める。反抗期に俳句がぴったりと同調。高校在学時、今井聖に出会い俳句誌「街」創刊と同時に入会。童貞喪失を経て詩誌「ERECTION」に参加。2011年、作家・石丸元章と出会い、屍派を結成。2012年、芸術公民館を現代美術家・会田誠から引き継ぎ、「砂の城」と改称。句集に『天使の涎』(第7回田中裕明賞受賞)、『時の瘡蓋』、編著に『新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」アウトロー俳句』『生き抜くための俳句塾』。

写真 / 隈部周作
取材・文 / 山本千尋