【第9回】ちいさい秋、見つけました

 朝、テレビのニュースキャスターが、こんなことを言っていました。
「紅葉といえば秋の風物詩だったはずですが、最近はどうも冬のものになりつつありますね」
 なるほど、たしかにそんな気がします。
 たとえば、ぼくの住んでいる千葉県では、9〜10月はまだ夏の名残りを感じさせるほどで、紅葉とは程遠い「秋」です。
 本格的な紅葉は、11月の終わりから12月にかけて。暦でいえば「冬」ですもんね。
 これもやっぱり地球温暖化のせいかな──、なんて思いながら、今日も散歩に繰り出しました。
 ニュースキャスターの台詞が胸に残っていたせいか、歩き出したぼくの頭のなかには、童謡の「ちいさい秋みつけた」がリピートされはじめました。
 すると必然的に、ぼくの目は散歩道の「ちいさい秋」を探してしまいます。
 歩きながらふと気づいたのは、赤とんぼがあまりにも少なくなったということでした。水たまり、池、沼、田んぼが激減したせいで、ヤゴの生息域が無くなってしまったのでしょう。
 ぼくが子供だった頃は、空を見上げさえすれば、赤とんぼが電線にずらりと並んでいたものですが……。
 この日のぼくの「ちいさい秋」は、頭上ではなく、足元にありました。
 鮮やかなムラサキシキブの実が目についたのです。
 この実は、熟せばかすかに甘みがありますが、食べても美味しくありません。でも、果実酒にするとハーブのような香りのあるお酒になるので、以前はよく楽しんでいました。ものの本によれば、身体にもいいそうです。どんな薬効があるのかは、すっかり忘れてしまいましたけど(笑)

鮮やかなムラサキシキブの実

 さらに歩いて、ぼくは木々に覆われた丘を登りました。
 そのまま急な階段を降りようとしたら、淡いピンク色をした野菊がぼくを「通せんぼ」していました。にょきにょきと伸びた茎が、花と葉っぱの重さで傾いて、行く手を塞いでいたのです。
「ほら、ちゃんとわたしを見てよね」
 そう主張しているような気がしたので、ぼくは胸裏で「了解です」とつぶやきつつ写真を撮りました。
 ちなみに、学術的にいうと「ノギク」という種類の植物はありません。野生の草花のなかで菊に似たものを総称して野菊と呼んでいるのです。
 だから、ぼくを通せんぼした野菊は──、
 たぶん「ヨメナ」かな。

ぼくを通せんぼした野菊

 それから住宅地を抜けて、駅前を通り、坂を登って、自宅の門をくぐりました。
 そして、そこにも「ちいさい秋」がありました。
 真っ赤に色づいた楓です。
 少し傾きかけた太陽の光を透かして、楓の葉は蛍光オレンジに輝いていました。

我が家の玄関先で色づいた楓

 ひんやりとした風が吹いて、輝く葉っぱたちがいっせいに踊り出したとき、ぼくの脳裏には、なぜか一足早い「ジングルベル」が流れはじめたのでした。
(写真は全て筆者撮影)

この記事を書いた人
森沢 明夫(もりさわ・あきお)
1969年、千葉県生まれ。小説家。早稲田大学卒業。
吉永小百合主演で映画化された「虹の岬の喫茶店」をはじめ、有村架純主演の「夏美のホタル」、高倉健主演の「あなたへ」など、映画やドラマとして話題になったベストセラーが多い。また、エッセイ、絵本、作詞なども手掛けている。近刊には「エミリの小さな包丁」「かたつむりがやってくる」「水曜日の手紙」「雨上がりの川」などがある。