今回は『人生すべてが俳句の種。』の番外編をお届けします。『半自伝的エッセイ 廃人』(以下、『廃人』)で、表紙写真をはじめ、北大路翼さんの撮影を担当した藤本和典さんに、お話をうかがってきました。熱海や伊東、新宿でロケを敢行した撮影エピソードも満載です。これを読んで『廃人』を読むとさらに楽しめます!


著者・北大路翼さんとの「距離感」
── 今回の『廃人』の撮影で、一番のポイントはどこでしょうか?
藤本和典(以下、藤本) そうですね、今まで俳人のかたを撮影した経験がなかったので(※編集部注:藤本さんは、広瀬すず、星野みなみ、SHO&YOHなど俳優やアイドル写真集を多く手がけています)、どういうテンションで、どういう接しかたがよいのか、「距離感」が重要なポイントでした。写真(の質)は、あとからついてくるので。
熱海の商店街からスタートしたんですが、そのとき、北大路さんの緊張感が伝わってきて。“緊張”だけでなく、“照れ”もあったので、どうやってぶっ壊していこうかなと。気持ちを楽にして臨んでもらえるよう、散歩したり、鯛焼きを食べてもらったり、ときには写真を見せて、どういう方向性がいいのかを探りつつ流れを組み立てましたね。

商店街にて。『廃人』P59(左)、P128(右)
── たしかに、写真を撮りますって、急にレンズを向けられたら固まってしまいますよね。大変だったことや、心がけたことはありますか?
藤本 俳優さんではないので、撮影慣れしていないし、すぐ動けるわけじゃない。うまくイメージの提案や指示をしないとな、ということはありました。
あと僕自身、俳句を詳しく知らない。俳句の会話はつながらないと思っていたので、そこには踏み込まないようにしました。コミュニケーションとしては、お酒は何が好き? どんな女性が好き? といった身近なことが良いのかなと。
── 北大路さんの印象はいかがでしたか?
藤本 見た目の印象は、大きくてクマさんみたいだなって(笑)。
俳句を詠むシーンでは、本当に“あっ”と驚きました。やはり“俳人”なんだなと。直前まではお酒を飲んで、ゲラゲラと笑い、自由に、適当につらつらと文字を書いていたけど、いざ本番となると、空気が一瞬で変わりましたね。

龍宮閣にて。『廃人』P12-13
── “俳人”としての真剣な眼差しは見どころですね。リラックスした“素”(廃人っぽい?)の様子など、ほかにもさまざまな表情が楽しめます。
藤本 今回の写真のように、おもしろ可笑しく、より身近に、でも真剣に俳句を感じさせてくれる北大路さんのようなかたが、もっと出てきたら、俳句の世界はもっと盛り上がるのかな、とも感じました。俳句を知らない僕からすると、“固い”という印象がどうしてもあって。

撮影場所は熱海・伊東。花火の写真は2時間待ち
── 撮影のテーマは、どのようなものだったのですか?
藤本 打ち合わせで決めていたキーワードは「俳人の休暇」です。北大路さんが、夏に伊東へ旅行するタイミングで同行させていただきました。
── 頭の中に、具体的な絵のイメージはありましたか?
藤本 文化人のかたを撮ることを意識して準備をしつつ、自分なりの基準を考えました。某写真家が、ある映画監督を撮影した雑誌グラビアは参考にさせていただきましたね。モノクロで収められた、海や公園の雰囲気が好きで。風景だったり、手のひらだったり、被写体の顔だけではない写真表現をあらためて、“学び”として確認しました。
ふだんの(タレントの)撮影スタイルではなく、変えていかないといけない。それを頭に入れて、体に染みこませて当日を迎えました。
── いちばん印象に残っている撮影エピソードは何でしょう?
藤本 熱海の「花火」です。あの写真を撮れたのは、もう、アシスタントのおかげなんですが、花火が始まる時間まで場所取りをがんばってくれました。その待ち時間に、僕たちはソープランドに行くか……迷ってたんですけどね(編集部注:そのお店の看板は『廃人』P81上段)。北大路さんとも一緒に行きますか? って現場で話してました(笑)。本当に行けばよかった。行ったら面白かったのに~。

『廃人』P14-15
そうそう、あとは船上。観光客が多く、揺れもひどかったなか、鳥がたくさん集まってきて。翼をひろげた鳥が、大空を飛び立っている絵(表紙使用カット)は、担当編集者によると、あれで全体のイメージが決まった、と。
── そのとき、北大路さんはどんな様子でした?
藤本 う~わ~、う~わ~って、ずっと叫んでました(笑)。鳥が頭に突撃しそうで、結構ビビってましたね。ふだん、新宿で飲んでいるせいか、自然を前に、意外と弱い面を見せていました。自然は好きなんだろうけど、自然に弱そう。そう思った(笑)。いちばん弱い顔をしていた瞬間でした。

鳥が迫ってきています…

表紙はデザイナーさんのアイディアで銀刷に

そして、活動拠点の新宿へ
── 新宿の撮影は別の日に撮影したそうですね。
藤本 はい。夜に1時間くらいで撮影しました。打ち解けていたこともあって、とてもスムーズでした。「熱海」があったからこそ「新宿」が効いている。この本のよさです。北大路さんの気持ちがとくに乗ってました、強いというか。「砂の城」にはびっくりしましたけど。せまっ! って(笑)。横断歩道の写真も想像通りにできましたね。
── とてもカッコいい仕上がりになっています。熱海の着物、新宿の白スーツ、衣装の変化もいいですよね。

『廃人』P2-3

俳句を知る、きっかけになればいい
── 北大路さんを撮影したからこそ感じた、写真と俳句の共通点はありますか?
藤本 とにかく撮ることですね。最初は、イメージをぜんぜん具現化できないんですね。あれ?って。現像したら撮りたかった写真とちがう。具体的なものは分からない状態だけど、量、経験、修正していくうちに、技術が身についてきて、その誤差がだんだん無くなってくる。何か……自分の中で確立するものが出てくる。それを見つけると強い。写真の師匠がいたら、レンズは何を使ってるかを見て、写真のあがりを見て、それを覚えて試しながらオリジナルにしていく。もう撮るしかないですもんね。ごたごた言わずに撮れと。とりあえず撮れと。俳句にも通じる、そういった話は、北大路さんと現場でもしていました。写真も俳句も教わるものではないと思います。学ぶもの。
── なるほど。北大路さんも20,000句以上、Twitterで俳句を公開しています。とにかく写真も俳句も実践あるのみ、ということですね。
藤本 そうそう。写真や俳句を見て、興味をもったらまずやる。難しいとか思わず、どんな言葉でもいい、もっと気楽でいいんだ、インスタで公開してもいいんだ、と感じてほしいですし、『廃人』の写真が俳句に向き合うきっかけになってくれたら、うれしいですね。
── 本当にそう思います。今日はいろいろと教えていただき、ありがとうございました!
藤本 この撮影は新しい挑戦でした(笑)。こちらこそ、本当にありがとうございました。

2月8日(土)青山ブックセンターにて開催!
『半自伝的エッセイ 廃人』刊行記念
「俳句と短歌の可能性 -歌舞伎町念力-」

出演:北大路翼(俳人)、笹公人(歌人)
日時:2月8日(土)14:00~15:30 開場13:30~
場所:青山ブックセンター
申し込み:http://www.aoyamabc.jp/event/possibility/ (青山ブックセンター)
北大路翼さん初のエッセイ集『半自伝的エッセイ 廃人』の刊行にあたり、歌人の笹公人さんとの対談が実現。いつどこで詩(ルビ:ことば)と出会い、どうやって詩と生きてきたのか。普段の創作への思いや裏話、笑いのある「17文字」と「31文字」、誰もが今日から実践できる「技術」と「知識」、歌舞伎町の魅力、言葉の念力、蔓延するSNSでの言葉の暴力…など、現代における「俳句と短歌(ことば)」の可能性を語り合います。
※終了後、おふたりのサイン会も開催いたします。
●藤本和典(ふじもと・かずのり) カメラマン
1977生まれ。日本大学卒業後、スタジオロックに入社。渡辺達生氏に4年間従事。2008年に独立。「人間臭い写真」を求めて雑誌、広告などを中心に活動。撮影を担当した山崎真実最新写真集が2月21日に発売予定。
●北大路 翼 (きたおおじ・つばさ)  新宿歌舞伎町俳句一家屍派 家元/砂の城 城主
1978年5月14日、神奈川県横浜市生まれ。小学五年頃、種田山頭火を知り、自由律俳句をマネたモノを作り始める。反抗期に俳句がぴったりと同調。高校在学時、今井聖に出会い俳句誌「街」創刊と同時に入会。童貞喪失を経て詩誌「ERECTION」に参加。2011年、作家・石丸元章と出会い、屍派を結成。2012年、芸術公民館を現代美術家・会田誠から引き継ぎ、「砂の城」と改称。句集に『天使の涎』(第7回田中裕明賞受賞)、『時の瘡蓋』、編著に『新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」アウトロー俳句』『生き抜くための俳句塾』。
『半自伝的俳句エッセイ 廃人』
(春陽堂書店)北大路翼・著

“人生すべてが俳句の種”と語るアウトロー俳人・北大路翼初のエッセイ集。書き下ろし俳句も多数掲載したエッセイ48篇、2万句を超える過去作品からの肉筆自選23句、俳句をつくる実践的なテクニックを指南する俳句塾など、北大路翼が俳句をとことん遊びきった渾身の一冊。