『人生すべてが俳句の種。』の番外編・第2弾です。『半自伝的エッセイ 廃人』(以下、『廃人』)の読みかたについて、著者・北大路翼さんにお話をうかがいました。


タイトルに込めた想い
── 『廃人』は3つの章から構成されています。第一章は、これまでの発表作品から23句を自選した「詠まずにいられるか 思い出の一句」。手書きの句とショートコメントが、ページをめくる楽しさを教えてくれます。

第一章よりP32(左)、P40(右)

── つづく第二章は「あめつちの詞」。この本の核心とも言える、俳句とエッセイです。そして、第三章「技巧一閃 俳句のテクノロジー」では俳句への“思い”と“テクニック”を分析しています。単著として初の試みである、写真の表紙、口絵グラビア(写真に関する記事はこちら)もみどころです。1冊を通して、強いこだわりを感じました。

第二章よりP151(左)、P52(右)

── まずはじめに、タイトルの『廃人』に込めた想いから聞かせてください。
北大路翼(以下、北大路) 圧倒的な自分への陶酔感です。ナルシズムに近いのですが……じゃないと、こんなタイトルはつけられないよ(笑)。一生、名刺代わりになると思っています。「どっちのはいじん?」なんて定番のギャグがありますが、これで堂々と廃人だと名乗れます。サブタイトルに“半自伝的エッセイ”と銘打っている通り、いままでの俳人としての歩みがあり、その流れの延長線上に本作もあるので、最新の「句集」として、是非、読んでいただきたいです。

エッセイは、俳句のなぞ解き
── とにかく「句」を詠んでほしいと。
北大路 はい。エッセイに添えられている俳句は、書き下ろしです(『廃人』はすべて書き下ろし)。俳句は俳句だけ、エッセイはエッセイだけ読んで、写真は写真として見る。これが僕のおすすめです。順番に読んでも、べつべつに読んでも成立するように意識しました。俳句のなぞ解きとして、エッセイを読んでみるとさらに理解が深まるかなと思います。
── たしかに、手にとるかたを想像すると、俳句、散文、写真……さまざまな人が、自分の「好き」なところから入って読めるのは最大の魅力ですね。
北大路 そう取ってくれると嬉しいです。だけど、感想を求めたときに、語りづらいんだろうな。「句集」だと感じたことを言いやすいけど、エッセイとセットになっているので、感想が素直に言えず、みんな口ごもってる(笑)。凝った作りにしてしまったがゆえの、ジレンマ。いい意味で遊びまくってしまった。俳句とエッセイがお互いにミスリードを誘うように意地悪な添え方もしています。
写真の感想はたくさん、もらうんだけどね~。イベントでは、俳句の感想をもっと頂けたら、と思います。

汗をかく仕事と汗を売る仕事
── せっかくなので、掲載俳句から一句、ご紹介していただけませんか。
北大路 そうですね。俳句はどれも力を入れたので、好きなように詠んでほしい。しいてあげるなら「汗をかく仕事と汗を売る仕事」かな。この句の毒っ気は、みなさんが僕に対して求めてくれていることだと考えています。歌舞伎町らしさ。
── 「ルーズソックス」のエッセイに添えてある句ですね。平成の歌舞伎町、北大路さんの青春時代を感じます。

ツイッターで公開した「北大路翼自解10句」より

第二章よりP136

── 今回あえて、過去作品を直筆で掲載した意図はありますか?
北大路 いまの時代、携帯、パソコン……字を自分で書けなくなってきているので、危ないと思って。忘れるしね(笑)。もともと書くことは好きで、俳句とも相性がいい。むかしからある手法だし、墨のモノクロも線の表現もカッコいいし。グラビアのカラー写真とも対比されていて、「昼」と「夜」というイメージで気に入っています。
そして最終的には自選していますが、下選を編集のかたに頼みました。誰がどんな句を選んでくれるのか楽しみがあります。とくに俳人ではない一般のかたの視点を大事にしたいと思っています。

“ゆったり感”を味わってほしい
── 『廃人』を通して、いちばん伝えたいことを教えてください。
北大路 最近は、「古い」ことがそのまま「悪」と捉えられているけど、古いってだけで、悪くはないんです。だから、最近はジェンダーの問題がうるさいけど、極端にいえば「男尊女卑」でうまくまわっている世界もあった。煙草だってちょっと前まではどこだって吸うことができた。悪習も何かの意味があるから習慣になっていたものなので、一気に変えてしまうのはどうかと思う。令和になっても「昭和の男」でいたいと思います。いまでは肩身の狭い思いをしている中年には共感していただけるかと。
── 活動拠点である歌舞伎町は、生活や感情に懐の「広さ」がありますよね。
北大路 変わらなくちゃいけないのは分かる。けど、自分のスタイルを他人に強要するようなやり方はものすごく不快に思いますね。世界的にもポリコレが行き過ぎて、そろそろ生活に歪みが出てきているでしょ。その点、歌舞伎町は放任主義で暮らしやすいと思います。ま、変化なんてもんは自然に起きるもんだよね。僕はたまたま行き詰まったときに、熱海や伊東にたどり着いた。あそこは時間がのんびりしてていいよ。のんびりどころかとまってるぐらい(笑)。スナックのママなんて、200年前からそこに座ってるんじゃないかな。エッセイで書いているけど、旅行で新幹線を使わずにあえて鈍行列車で行ってみたりするのもいい。停車する駅ごとに違う花が咲いてたり、発見もいろいろとあるよ。だから『廃人』を読んだ人も、あわてて買う必要ないって思っているのかな? そればっかりは、あわてて買ってほしいんだけど(笑)。

2月8日(土)青山ブックセンターにて開催!
『半自伝的エッセイ 廃人』刊行記念
「俳句と短歌の可能性 -歌舞伎町念力-」

出演:北大路翼(俳人)、笹公人(歌人)
日時:2月8日(土)14:00~15:30 開場13:30~
場所:青山ブックセンター
申し込み:http://www.aoyamabc.jp/event/possibility/ (青山ブックセンター)
北大路翼さん初のエッセイ集『半自伝的エッセイ 廃人』の刊行にあたり、歌人の笹公人さんとの対談が実現。いつどこで詩(ルビ:ことば)と出会い、どうやって詩と生きてきたのか。普段の創作への思いや裏話、笑いのある「17文字」と「31文字」、誰もが今日から実践できる「技術」と「知識」、歌舞伎町の魅力、言葉の念力、蔓延するSNSでの言葉の暴力…など、現代における「俳句と短歌(ことば)」の可能性を語り合います。
※終了後、おふたりのサイン会も開催いたします。
●北大路 翼 (きたおおじ・つばさ)  新宿歌舞伎町俳句一家屍派 家元/砂の城 城主
1978年5月14日、神奈川県横浜市生まれ。小学五年頃、種田山頭火を知り、自由律俳句をマネたモノを作り始める。反抗期に俳句がぴったりと同調。高校在学時、今井聖に出会い俳句誌「街」創刊と同時に入会。童貞喪失を経て詩誌「ERECTION」に参加。2011年、作家・石丸元章と出会い、屍派を結成。2012年、芸術公民館を現代美術家・会田誠から引き継ぎ、「砂の城」と改称。句集に『天使の涎』(第7回田中裕明賞受賞)、『時の瘡蓋』、編著に『新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」アウトロー俳句』『生き抜くための俳句塾』。
『半自伝的俳句エッセイ 廃人』
(春陽堂書店)北大路翼・著

“人生すべてが俳句の種”と語るアウトロー俳人・北大路翼初のエッセイ集。書き下ろし俳句も多数掲載したエッセイ48篇、2万句を超える過去作品からの肉筆自選23句、俳句をつくる実践的なテクニックを指南する俳句塾など、北大路翼が俳句をとことん遊びきった渾身の一冊。