【第12回】不人気な神社が好きな理由

 よく散歩をするコースのなかに、不人気な神社があります。
 拝殿もボロボロで、境内の掃除も行き届いていませんし、鬱蒼とした樹々に覆われているから昼間でも薄暗い……。
 いつも「陰気」な雰囲気を漂わせているせいか、参拝者の姿もほとんど見たことがありませんし、「あそこは気持ち悪い」とすら言う人もいるほどです。もちろん「お祭り」も開催されません。
 子供の頃から、ぼくは不人気なものを見ると、心がちょっと引っかかるタイプでした。お祭りの屋台でお客のいない店があると、なんとなく店番のおばあちゃんが可哀想で、つい、欲しくもないのに買ってしまう──というような感じです。
 だから、この神社にも、ぼくは昔から引っかかりを覚えていて、意味もなく参拝してみたり、雑誌の取材を受けるときに、あえてそこで写真撮影をしてもらったりしていました。人がいないので、撮影がしやすいのもありますけど。
 ある日、その神社をふらっと通りかかったとき、ぼくは息を飲みました。鎮守の森の樹々を伐採していたのです。
 チェーンソーを手にした業者さんに伐採の理由を訊ねると、「この神社、暗すぎるからねぇ」とのことでした。
 境内を見渡すと、倒された巨木が丸太になって積み上げられていました。ぼくは、なんだかいたたまれないような気持ちになって、業者さんにお願いをしました。
「この丸太、捨てるなら、もらってもいいですか?」
 すると業者さんは「それは助かる。どんどん持って行ってよ」と、むしろ喜んでくれたのでした。
 ぼくは近所に住んでいる友人を助っ人として呼び出して、ちょうどいいサイズの丸太を車に積み込み、「神様の木」を持ち帰らせて頂きました。樹種は杉です。
 持ち帰った丸太は、3年ほど軒下で寝かせて乾燥させたあと、チェーンソーやグラインダーで削り出し、背もたれ付きの「神様の椅子」にしてみました。
 不人気な神社からもらった丸太は、その形を変えることで、いまやリビングで家族に「人気」の椅子となったのです。

「神様の木」で作った「神様の椅子」がこれ

 その神社には、いまでもよく散歩で訪れています。
 巨木がたくさん伐採されたのに、それでも充分に薄暗く感じるほど、頭上には枝葉が生い茂っていて、相変わらず陰気で、不人気な神社です。

伐採後も、鬱蒼とした場所です

 でも、人が来ないということは、いつも「静か」なんですよね。小鳥のさえずりとか、樹々の葉擦れの音に癒されたりするには絶好の場所なのです。執筆疲れをしたときに、森の匂いを嗅ぎながらぼうっとする場所としても重宝します。
 人が来ないから気づく人も少ないでしょうけど、じつは狛犬がとても凛々しい顔をしていたりもして……。

狛犬、イケメンでしょ?

 ようするに、不人気な神社だからこそ、ぼくにとっては大切な場所なのです。この世界には、誰かにとって不要でも、別の誰かにとっては有用だったりするものって、いくらでもありますよね。
 そして、きっと、その法則は、人間にも当てはまるのではないでしょうか?
 あ、そうそう、ぼくは、その神社への感謝を込めて、いま書いている長編小説の舞台のひとつとして登場させています。若きキャラクターたちが、その不人気さを利用して、神社の境内の裏にこっそり隠れるのです。
 もちろん、その小説は「大人気」になって欲しいです、はい。
(写真は全て筆者撮影)

この記事を書いた人
森沢 明夫(もりさわ・あきお)
1969年、千葉県生まれ。小説家。早稲田大学卒業。
吉永小百合主演で映画化された「虹の岬の喫茶店」をはじめ、有村架純主演の「夏美のホタル」、高倉健主演の「あなたへ」など、映画やドラマとして話題になったベストセラーが多い。また、エッセイ、絵本、作詞なども手掛けている。近刊には「エミリの小さな包丁」「かたつむりがやってくる」「水曜日の手紙」「雨上がりの川」などがある。