【第14回】猫のいる風景が好き

 可愛い「ねこ動画」を見ると、精神的にいいし、やる気も出て、仕事の効率も上がる──、そんな素晴らしい科学的データがあることを、先日、ぼくは知ってしまいました。
 なので、最近のぼくは、原稿を書く気力が湧かないなぁ、と思ったら、すかさずネット動画で猫たちを眺めるようにしています。そうすると、なんだか本当にやる気が出てくるようなのです。
 猫ちゃんパワー、恐るべし。
 ぼくは、自分のことを「そこそこな猫好き」だと思っています。
 小説にもしばしば登場させていますし、散歩をしているときに猫と出会えると、なんだかそれだけで気持ちが和むので。
 かつては、いわゆる「サバ白」柄の猫を飼っていましたが、その猫が死んでからは飼っていません。理由はいろいろですけど、長くなるのでここでは割愛します。
 さて、先日も、ぶらっと住宅地を散歩しているときに、猫と出会いました。
 みゃあ──。
 アパートと道路を隔てる緑色のワイヤーフェンスの向こうから、三毛猫が声をかけてきたのです。
 愛嬌のある声色に、端正な顔立ちをした美人猫です。
 ぼくはついつい近づいていって、ワイヤーフェンスの隙間から指を突っ込みながら顎の下を撫でてやりました。三毛猫はときどき「みゃぁ」と甘えるように鳴いては、ぼくを見上げます。
 人懐っこい猫だなぁ。
 猫にしてみれば「猫懐っこい人間だなぁ」なんて思っているのかも知れませんが、とにかく、ぼくはしばらくのあいだ、その三毛猫と遊んでいたのでした。

フェンス越しに撫でた三毛猫

 そうこうしていると、小学3年生くらいの男の子と女の子の二人組がやってきて、男の子の方が「その猫、昨日もいたよ」と、ぼくに言いました。
「そうなんだ。人懐っこくて可愛いよね」
「うん、きっと飼い猫だと思う」
 それから子供たちは、二人してワイヤーフェンスの隙間に小さな手を突っ込んで、三毛猫を撫ではじめました。
「わたし、この模様の猫、好き」
 と女の子が言うので、
「この模様の猫は『三毛猫』っていって、全部がメスなんだよ」
 と教えてあげると、
「えっ、どうしてオスはいないの?」
 と男の子に質問されました。
 ちびっ子を相手に染色体がどうのこうのという話は難しすぎるし、そもそもぼくも詳しくは知らないので、「うーん、何でだろうニャ〜」とふざけて誤魔化しました。
 大人失格です。
 猫懐っこい子供達にバイバイをしたあと、ぼくは近くの緑地公園に行くことにしました。なぜかというと、そこはまさに猫のサンクチュアリだから。正直、人よりも猫の数が多いくらいなのです。

猫サンクチュアリの入り口

 住宅地を抜け、石畳の坂道を登り、木々に囲まれた緑地公園へ。
 誰もいないベンチに座っていると、猫好きの人たちがちらほら現れては、集まってきた猫たちに餌をやります。
 ぼく自身は野良猫に餌をやりませんが、でも、人が猫に餌をやっている光景を眺めているのは、なんだか好きなんですよね。人も猫も互いにウィンウィンな関係だからでしょうか。とても平和で、見ていて安心するようなワンシーン……、いや、ニャンシーンだと思います。
 いつか猫の一人称で小説を書こうかな──。
 気づけばそんなことを考えはじめている自分に、ぼくは笑いそうになりました。「ねこ動画」ではなくて、リアルな猫と人間を見ていても、仕事への「やる気」が湧いていたからです。
 うん。やはり猫ちゃんパワー、恐るべしですね。
(写真は全て筆者撮影)

この記事を書いた人
森沢 明夫(もりさわ・あきお)
1969年、千葉県生まれ。小説家。早稲田大学卒業。
吉永小百合主演で映画化された「虹の岬の喫茶店」をはじめ、有村架純主演の「夏美のホタル」、高倉健主演の「あなたへ」など、映画やドラマとして話題になったベストセラーが多い。また、エッセイ、絵本、作詞なども手掛けている。近刊には「エミリの小さな包丁」「かたつむりがやってくる」「水曜日の手紙」「雨上がりの川」などがある。