ネット通販の普及と活字離れの影響で、昔ながらの街の本屋さんが次々と姿を消しています。本を取り巻く環境が大きく変わりつつある今、注目されているのが新たな流れ“サードウェーブ”ともいえる「独立系書店」です。独自の視点や感性で、個性ある選書をする“新たな街の本屋さん”は、何を目指し、どのような店づくりをしているのでしょうか。


【連載26】
わかりやすい猫の本だけじゃ、つまらない
Cat’s Meow Books(東京・三軒茶屋)安村 正也さん

安村さんの腕に抱かれているのは、猫店長の三郎さん

東急世田谷線「西太子堂」駅から徒歩2分。2017年の「世界猫の日」(8月8日)に開店した「Cat’s Meow Books(キャッツミャウブックス)」は、猫と本屋が助けあうことをコンセプトにした、猫のいる、“猫本”だらけの本屋さんです。会社員とのパラレルキャリアで、本屋の店主になった安村正也さん。猫のTシャツを着た安村さんに誘われ、奥のスペースに入っていくと、「いらっしゃい」と言わんばかりに猫店員たちが出迎えてくれました。
書店員として、はたらく猫たち
── (イスに座ったとたん、小柄なキジトラがよじ登ってきて、ヒザの上で丸くなる)……この子、初対面なのに、警戒心がまったくないですね。
1階の店舗にいる4匹は、保護猫のカフェや譲渡などをしている「ネコリパブリック」から譲り受けた子たちで、人に慣れているんです。とくにその子、“すず”は人たらしで、僕も妻もコロンとお腹を見せられるとまいっちゃう。最初に出迎えた“読太よんた”(キジトラ)は、呼んだら来るし、ワンコみたいでしょ。黒猫の“さつき”は、天然で甘えん坊。キャットウォークにいる”チョボ六”(キジシロ)は、ツンデレですが好奇心旺盛で、人の言葉を一番理解しています。どの子もわざと本を落としたり、引っかいたりしないので、書店員としての自覚はあるようです。

── 猫がヒザの上にのってくると、腰を落ち着けて、つい目の前にある本を手に取ってしまいますね。

そうなんです。さっと店内を見て帰ろうとしていた人も、「しょうがないなぁ」という感じでページをめくっているうちに、帰りがけに買ってくださることもある。性格は違いますが、それぞれにファンがいますし、みんないい仕事をしてくれています。もう1匹、“三郎”(キジトラ)という猫店長がいますが、18歳のおじいちゃんなので、自宅のある2階からめったに降りてきません。レジの奥に写真を飾っているのは“Dr.ごましお”。店がオープンする前に亡くなってしまいましたが、初代番頭として、いまもみんなを見守ってくれています。
── 猫への愛があふれる安村さんが、本屋をはじめようと思われたきっかけは何だったのでしょう。
僕は、趣味がビブリオバトル*というくらい、もともと本が好き。「いつか本と猫とビールに囲まれて暮らせたら」なんて、ぼんやりと考えていましたが、本屋主催のトークイベントなどに足を運び、本屋をはじめた人の話を聞いているうちに、本屋や流通のことをもっと知りたいと思うようになったんです。2016年の春から「本屋入門」(双子のライオン堂、BOOKSHOP LOVER共催)や「これからの本屋講座」(ブック・コーディネーター内沼晋太郎さん主宰)を受講して、「これからの本屋講座」で発表したのが、「本×猫」の店でした。アイデアを公言した以上、誰かに先を越されるかもしれない。そう思ったら気が気じゃなくなって……。夢中で走り続けたら、プランから約1年半で店をオープンしていました。
新刊を増やしたのは、猫と出版界のため
── 会社員の仕事をしながら、中古物件を購入してフルリノベーション。その間に本をそろえるなど、開店準備は大変だったでしょう。
店をオープンする頃には、夫婦それぞれ体重が10kgも減っていたほど、身体はきつかったですね。でも、夢に向かって進んでいることが、とにかく楽しくて、精神的には元気でした。実は、物件を契約するとき、手付金を入れる直前になって、一瞬、躊躇したんです。「こんな住宅地にお客さんは来てくれるのだろうか」「本当にここでいいのか」と。でも、いまはここに決めてよかったと思っています。商店街など人通りの多い場所だったら、猫だけを目的に来る人がもっと多かったでしょう。ここは猫カフェじゃなくて、“猫のいる本屋”ですから。

── 店内は手前が新刊エリア、奥は古本だけかと思っていましたが新刊もあるんですね。
オープン当初、猫がいる奥の部屋は古本だけでしたが、この子たちはいたずらをしないし、猫のいるスペースのほうがお客さんの滞在時間が長いので、奥にも新刊を置くようになりました。はじめは仕入れ予算の関係で7割が古本でしたが、最近は6割が新刊です。うちは売上の10%を保護猫の活動団体に寄付していますし、本屋をするからには出版業界にも貢献したい。10%寄付だなんて、本屋だけで食べていこうとしたらありえないことですが、そのこだわりがあるからこそ、わざわざここで買ってくれる人がいる。だから、これからもできるだけ新刊を売る努力をしていきます。

── 表紙やタイトルに猫が出てこない本もたくさんあるようですが、どうやって選んでいますか?
アンソロジーや短篇集、『365日の~』というタイプの本を開いて、「猫」という文字やイラストをセンサーのように目を光らせて探します。猫に興味をもっている作家を見つけたら、そこから広げていくパターンが多いですね。わかりやすい猫の本だけだと、のっぺりとした厚みのない本屋になってしまうし、なにより自分がつまらない。ビブリオバトルでは、毎回テーマにあった本をプレゼンするんですが、「ほほう、そう来たか」と思ってもらえるような本を探すことに楽しみを見出していました。いまは、猫という永遠のテーマを与えられて、ひとりでビブリオバトルを続けているようなものです。
この春から、いよいよ通販スタート
── 人気のある猫と本。今後コンセプトがかぶる店が出てくることについて、どう思われますか?

最初にやったのはうちですし、店名やロゴは商標登録もしているので、同じコンセプトの店ができたとしても、まったく問題ありません。「本と猫の店を開きたい」と相談に来る人もいますが、お話できることは、すべてお伝えしています。本屋なんて個人商店の極みのようなものだから、店主のカラー次第で店も変わる。たとえ似たようなコンセプトでも、空間や選ぶ本が違うはずなので、「うちの隣でなければ、どうぞやってください」というスタンスでいます。
── 夢だった本と猫とビールに囲まれた暮らしを実現されたわけですが、これからやりたいことはありますか?
僕は書くよりも話すほうが得意なタイプですが、もっと文章力を磨いて、どんどん発信していきたいですね。それと、これまでは店の雰囲気や空間を実際に来て感じてほしいという思いから、かたくなに配送をしませんでしたが、この春から通販をはじめます。考えを変えたのは、寄付に貢献するためにうちで本を買いたいけど、遠方に住んでいるのでなかなか行けないという声がたくさん寄せられたから。カタログ通販のようなものだと、店の魅力が伝わらないと思うので、360度カメラで店内を撮影して、インターネット上でバーチャル来店してもらい、「店にあるものなら配送しますよ」という形で進める予定です。(※2020年4月1日にバーチャル店舗がオープンしました!)

── では、最後に。街の本屋の役割とは、なんだと思われますか?

街に本屋があるか、どんな本屋があるかでその街の文化度が測れると思うんです。街の顔とまではいかなくても、本屋は街の表情のひとつ。「荻窪」といえば、「Title(タイトル)」さんの名前があがるように、街と店の屋号がセットになっているのが街の本屋ではないでしょうか。店頭には猫の本しか置きませんが、注文してもらえれば、猫の本でなくても取り寄せますし、もちろんその売上も10%寄付します。猫が好きな人だけでなく、そうでない人からも「三軒茶屋のキャッツミャウブックス」と呼ばれるようになれたらうれしいです。
書棚を見て驚いたのは、安村さんがそろえた猫本の幅広さ。ビブリオバトルで鍛えられた選書眼、そこから繰り出される猫の本は、直球だけでなく、どこに猫が出てくるのかわからないような変化球も多彩です。1日の終わりにビールグラスを傾けながら、猫に癒されつつ本を読む──。安村さんにとって夢の空間であるこの店は、猫と本を愛するすべての人にとっても、幸せな場所になることは言うまでもありません。
*ビブリオバトル=4~6人のプレゼンターが5分間でおすすめ本を紹介したあと、約2分間の質疑応答を経て、聴衆が読みたいと思った本を多数決で「チャンプ本」を選ぶ、本のプレゼンゲーム。「知的書評合戦」とも呼ばれている。


Cat’s Meow Books 安村さんのおすすめ本
『日々の子どもたち あるいは366篇の世界史』エドゥアルド・ガレアーノ著、久野量一訳(岩波書店)
古今東西の神話・伝承から、偉人や名もなき人のエピソードまで、さまざまな事柄を独特のセンスで拾いあつめた366日、1日1話。全人類にとって、1年のはじまりが1月1日ではないことや、7月26日にボルネオの空から猫が降ったことなど、過去の1日が今日につながっていることを人類の歴史とともに考えさせられる1冊です。
『人生の童話 心に刻む10のものがたり』上田信道、浅生ハルミン著(春陽堂書店)
「蜘蛛の糸」や「ごんぎつね」など、長く読み継がれてきた童話には、大人こそ読むべき深い話が散りばめられています。目の前に起きたことをどう読みとるか、どう捉えるかによって人生は変わっていく。世の中は寓意に満ちていることを、この本はあらためて気づかせてくれました。猫が登場する話は「注文の多い料理店」です。

Cat’s Meow Books
住所:154-0023 東京都世田谷区若林1-6-15
TEL:03-6326-3633
営業時間:14:00~22:00頃(日祝は20:00頃まで)
定休日:毎週火曜
https://catsmeowbooks.stores.jp/


プロフィール
安村 正也(やすむら・まさや)
1968年、大阪府生まれ岡山県育ち。マーケティングリサーチ会社に勤務しながら、本を紹介するゲーム「ビブリオバトル」に参戦し、その世界ではレジェンド的存在に。2017年8月、猫のいる/猫本だらけの/猫と人を幸せにする本屋「Cat’s Meow Books」をオープン。妻・真澄さんの協力を得ながら、現在もパラレルキャリアを継続中。


写真 / 隈部周作
取材・文 / 山本千尋
この記事を書いた人
春陽堂書店編集部
「もっと知的に もっと自由に」をコンセプトに、
春陽堂書店ならではの視点で情報を発信してまいります。