ふとんをかぶってやってゆく(魂バージョン)

「ねえ、最近、なんどもなんども眠ってるんだよ。読むものもねむるものばかりでね。へんな話だよね。いつもねむたいかんじなのに、もっとねむるんだ。でも、やってゆく」と電話でいってたひとがいた。「やってゆく」とふっとつけくわえたのは「やってくきがあったから」って、あとで、言っていた。

  帰り
  すれ違う人たちの顔を
  つぎつぎ見た

  どれもひふがあって
  みんなきちんと裂けたり
  でっぱったりで

  これらと
  世の中 やってゆく
   (松下育男「顔」『現代詩文庫 松下育男詩集』)

やってゆく、ってどういうことなんだろうと松下さんの詩集を読みながらかんがえたりしていた。やってゆかなきゃならない日々だから。

水木しげるの『河童の三平』では、三平はしんじゃって魂になっちゃうけれど、魂の姿で家族の心配を、ひとの心配をちゃんとして、やってゆく。魂になってもちゃんとやってゆく。「みてよ、ヒバリが二羽でとんでるぜ」とタヌキは三平のたましいのからだの肩に手をかけていう。おわかれがちかい。でもふたりは別れてもやってゆく。泣いてもやってゆく。たくさん起きて、たくさん眠り、やってゆく。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター