くつのうらもちゃんとよごれてた

昔こんなことを言っていた女の子がいた。「世界が終わるときあたしはどこにもいきたくない、ここにいたい」って。

まだもっとたいへんになるすこし前に秋葉原の海洋堂で、香港のアーティストのスティーブン・チョイさんのフィギュアを見ていた。
象やねずみや猫のファンタジックな王様が並んでたってる。お化けも。でも、みんな泣いてる。王様だけれどみんな泣いてる。おなかに星や月を抱えて。

フィギュアの背景のストーリーはこうだ。「主人公パイが破壊や汚染の進む世界や人々の生活を変えたいと願い、希望の種を手に旅を続ける物語です」。

ぜんぜんひとごとのようなきがしなくて、マスクのままちょっとそこにたっていた。これからどんな世界になるかわかってない。善くなってるのか悪くなってるのかも。だれもさきをしらない世界だから。でも、ひとつ買う。ブラインドボックスだから何が入ってるかはわからない。すぐ開けてみた。

お化けが入ってた。お化けのシーツは脱がすことができて、毛むくじゃらで一つ目の妖怪がおなかに惑星をかかえながら、泣いている。フィギュアは精巧に出来ていて、シーツの中も、靴の裏も、ちゃんと汚れてる。お化けもそこまで生きてきた。泣いても。

5月に入った。どんなに泣いても5月をわたしたちは過ぎる。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター